« 緋文字(ヴィム・ヴェンダース) | メイン | 医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か »

September 17, 2006

慈恵医大青戸病院事件―医療の構造と実践的倫理

■前回のメルマガを発行した直後に「周産期医療の崩壊」を加速する事件が横浜で起こりました。日本一の出産数を誇る堀病院で無資格の看護師による内診が行われていたとして警察による家宅捜索が入りました。私はこの問題が日本の周産期医療に与える影響は今年2月に福島県大野病院で起こった産婦人科医師不当逮捕事件同様に大きなものだと認識しております。虎の門病院泌尿器科部長の小松秀樹先生が書かれた「医療崩壊-立ち去り型サボタージュ-とは何か」を前回のメルマガでご紹介いたしましたが同じ著者による「慈恵医大青戸病院事件-医療の構造と実践的倫理-」に警察が医療事故の調査に加わることに関して厳しい指摘がなされています。■「わが国の警察、検察は犯罪捜査と刑事責任追及はすべてに優先すると考えているらしい。そのために事故が多発しようが、医療が混乱しようが、気にする様子はうかがえない。警察、検察を抑えるべき権威はわが国には存在しないようにみえる。本来、国内法に優先すべき国際条約も、国内にしか関心を持たない警察、検察を制御できていない。国土交通省、厚生労働省は、事実上、警察庁の下位におかれている。政治家も警察、検察に口出しできない。警察は理解力に問題があるためか、科学にも敬意を払わない。見込み捜査と自白強要という、昔ながらの犯罪捜査が、科学的調査を必要とする場面に土足で踏み込んでいる。警察、検察の活動について、チェック機構が働いているように思えない。チェックのない権力がどのようなものか、歴史を紐解くまでもなく、現在の世界を観察すれば十分に理解できる。」(p76)この文章は1985年の日航機事故で群馬県警が押収した圧力隔壁の提出を国際的な調査機関の要請にも関わらず拒否したことと医療事故の調査を絡めて群馬県警の姿勢を「卑小、愚か、かつ依怙地」と批判しているくだりである。この本が発行されたのは2年前の2004年9月であるがその後起こっている警察の医療事故への介入をまのあたりにすると小松先生の先見の明には驚かされる。ちなみに青戸病院事件で医師3名が逮捕されたのは2003年9月である。詳しいことは今回新しく立ち上げた私自身のブログで解説することにしようと考えているが今回の警察の捜査が周産期医療の崩壊を加速させたことは間違いない。■また報道と行政(厚労省)のあり方に関しても以下のごとく厳しいことが書かれているが私も今回の内診問題をめぐるマスコミの報道に接して同様な危機感を抱かざるを得ないと思う。小松先生が医療崩壊をくい止めるために立ち上がった経緯をすべての医療関係者は理解しなければならない。「わが国には、すべてを把握し、長期的見地から国益を考え、国民を指導する「お上」は、もはや存在しない。場面場面で世論からどのようにみられるかが、政策決定者の最も重要な判断基準であるようにみえる。これは議会制民主主義に内包するものであり、必然的帰結である。国民は国民的熱狂が、だれにも逆らえない政治的力を持つことを自覚すべきである。熱狂の裏で、冷静な権力者が、事態を正しく認識し、適切に対処してくれるなどと甘い期待を持ってはならない。マスコミ人は自分の持つ権力の大きさをもっと自覚すべきである。扇情的記事を書くとき、その影響の広がりと最終的解決まで考えておく責任がある。あるいは多様な意見を意識的に世に出す努力をすべきである。なぜなら、マスコミが一方向に走り出すと、冷静な議論は封殺される。現在の政治体制では、政府すら、適切な施策ができなくなるからである。」(p83)プルプル通信メルマガ版 第42号 *9月号*(Vol.19 No.16)2006年9月20日発行


*********************

慈恵医大青戸病院事件―医療の構造と実践的倫理 (単行本)
小松 秀樹
価格: ¥ 1,680 (税込み)
単行本: 208ページ
出版社: 日本経済評論社 (2004/09)
ASIN: 4818817112
--------------------------------------------------------------------------------

目次

第1部 医療と刑事責任―倫理と法律のはざまで
医療に対する過剰な期待と報道姿勢
「早期発見、早期治療」は賢い指針か
安全な手術はない ほか
第2部 大学と医局―社会学的分析
大学病院の矛盾
大学医局の人事システム
医局の成立と行動原理 ほか
第3部 医の倫理と医療の安全―思想の重要性
他に求める倫理と自己を律する倫理
思想の重要性
インフォームド・コンセント ほか

内容(「BOOK」データベースより)
医療事故ではどこまで医師の刑事責任を問えるのか。医療システムや医局制度、報道、厚労省の対応に問題はないのか。患者の死を無駄にしないための医療の具体的あり方を提案。

内容(「MARC」データベースより)
医療事故はどこまで医師の刑事責任を問えるのか。医療システムや医局制度、報道、厚労省の対応に問題はないのか。慈恵医大青戸病院での事件を例に、患者の死を無駄にしないための医療の具体的なあり方を提案。


慈恵医大青戸病院事件―医療の構造と実践的倫理 (単行本).jpg

投稿者 akiuchi : September 17, 2006 11:15 PM