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November 03, 2006

本田宏(寄稿)

医師不足と安全性についての論考

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[論点]医療事故防止 医師不足の解消が急務 本田宏(寄稿)
読売新聞 (1388文字) 2005年7月8日(金)


「日本医療機能評価機構」が4月、半年間に大学病院や国立病院などから報告された医療事故について、重大なもの533件、うち死亡83件だったと発表した。今後、さらに事例を分析し、再発防止に役立てるという。
米国の「医療の質委員会」が1999年にまとめた報告書「人は誰でも間違える--より安全な医療システムを目指して」は、「人間はどんな仕事でも間違いをおかす。間違うことが難しく、正しくすることがやさしい、といった設計をしておけば、間違いは防げる」と指摘している。
例えば、腸に入れる栄養剤を間違って血管に入れないよう点滴の管の接続部の形状を変えたり、投与する薬を医師と看護師でダブルチェックするなど、事故防止のためのシステム改善には、日々取り組んでいかなければならないのは言うまでもない。
だが、一線の現場からみると、安全のために一番肝心な点が、見落とされているように思われる。それは、年々進歩し複雑化してきた医療レベルに、対応できるマンパワーが少ないということだ。
98年、厚生省の「医師の需給検討会」は、将来的に医師が過剰になり、医療費を増大させる恐れがあると報告した。それを受けて、医学部定員は抑制されている。現在、厚生労働省の検討会が、「医師の需給」について見直しを進めているが、地方の医師不足や病院勤務医の過重労働が大きな問題になっているこの期に及んでも、医師不足は偏在によるのか、総数の不足によるのかを議論している段階にとどまっているようだ。
日本の医師が不足しているかどうかは、先進各国と比較すると、はっきりする。経済協力開発機構(OECD)加盟各国の医師数を人口10万人当たりで比較したデータでは、加盟国の平均は70年に約130人だったのが、2000年には約290人に増えている。この間、日本では約110人から190人程度にしか増えておらず、加盟30か国中26位だ。医師が集中しているとされる東京でさえ、10万人対では約270人で、OECD平均を下回っている。
この医師の絶対数不足こそが、無医村はもちろん、地方都市での産婦人科医不在問題、また全国的な小児科・救急・麻酔科・病理医不足などの原因だ。国立がんセンターでさえ、麻酔科医の確保に四苦八苦しているという。
人員不足の中、多くの病院勤務医は厳しい労働条件に置かれている。月に数回の当直日には、朝から夕方まで働いて、そのまま翌朝まで救急外来や入院患者をこなす。当直明けも夕方まで通常通りの勤務だ。
病院側が夜間診療をやめるか、当直明けの休みを与えればいいのだろうが、そうしたら日本の医療現場は回らなくなってしまう。疲れた医師が日常的に診療する構図が、医療の安全に大きな影を落としてきたのである。
財政赤字の中、少子高齢化で急増する医療費が問題視されている。だが、医療現場のマンパワー不足という問題を考慮に入れないまま、医療費を抑制するとしたら、医療サービスの質の低下や、医療事故発生のリスクを高めることにつながるだろう。
大勢の尊い命が失われたJR西日本の脱線事故では、過密ダイヤや日勤教育の問題点が指摘された。医療でも交通でも、人の命に影響を与える職種には、事故につながらないような安全な労働環境を整えることが何よりも必要だ。

◇ほんだ・ひろし 済生会栗橋病院副院長 弘前大医学部卒。外科医。医療制度研究会幹事。51歳。
写真=本田宏氏

[読売新聞 ]

投稿者 akiuchi : November 3, 2006 03:55 PM