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November 11, 2006

意識障害

奈良県の病院で脳内出血(高血圧による出血か?)による意識障害をおこした妊婦を子癇発作と診断して転送先が決まらずに妊婦死亡にいたった症例が問題になっている。私のような産科しかしらない藪医者(産科バカともいう)は他科の領域には疎いので私のところで同様なケースに遭遇したときに果たして適切な判断を下せるか自信がないというのが正直な思いだ。そこで今回は意識障害について少し勉強してみた。
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意識障害
Disturbance of consciousness

 意識障害の患者が救急で搬入された場合には,まずバイタルサインと意識障害の程度を把握することが重要である.
 血圧,脈拍,呼吸の状態を迅速にチェックし,質問に対する反応や外的刺激により,コーマスケールのどのレベルに当たるのかを評価しなければならない.
 患者の病状が把握できている際には,初療を行いつつ原因に対する治療をすすめることができるが,病歴も不明のままで搬入された場合は,必要な救急処置を行いながら,全身的ならびに神経学的診察を行う.
 患者発見者や救急隊員から,発症時の状況について可能なかぎりの情報を集め診断の一助とする.

初療の要点
① バイタルサインの把握
 血圧,脈拍,呼吸,体温の状態をチェックする.特に両側の頸動脈の触知,不整脈の有無,呼吸状態と気道閉塞の有無を迅速に判断する.低体温はそれ自体が意識障害の原因となる.
② 気道の確保
 気道の障害(嘔吐と誤嚥,舌根沈下,気道内異物,喉頭浮腫,気管支攣縮など)や,呼吸運動の障害(無呼吸,失調性呼吸,努力呼吸,Cheyne-Stokes呼吸,過呼吸),また低酸素血症が疑われる場合は,直ちに気管内挿管により気道を確保する.
 呼吸状態が一見正常でも,昏睡患者では気道の閉塞を未然に防ぐ目的で気管内挿管を行うのが原則である.また嘔吐を防ぐため,胃管も挿入しておく.
③ 循環のチェック
 心電図モニターの装着(不整脈監視),中心静脈路の確保と圧測定,動脈圧モニター,バルーンカテーテルの挿入による時間尿量測定.
④ 意識レベルと神経学的異常のチェック
 コーマスケールに準じた意識障害の程度の把握,脳幹症状の有無,特に瞳孔所見と対光反射,眼球位置と運動の異常,四肢硬直と腱反射,痙攣,病的反射,不随意運動の有無をみる.
⑤ 体表所見のチェック
 外傷痕,体表面の異常(皮膚色,皮疹,出血斑,褥瘡など),その他理学的所見を検索する.
⑥ 緊急に行うべき検査
 血液ガス,酸塩基平衡,血糖,ヘマトクリット,電解質,血清浸透圧,BUN(血液尿素窒素)などを検査し,続いて生化学・止血凝固能などを検査する.
⑦ 問診
 意識障害の原因に関する情報を収集する.
⑧ 呼気臭気のチェック
 アルコール臭(アルコール中毒),アセトン臭(糖尿病性ケトアシドーシス),尿臭(尿毒症)などは代謝性脳症を考え,頭蓋内病変の評価より,原疾患への診断治療が優先する.
⑨ 精神疾患,薬物中毒
 精神疾患や薬物中毒に対しては,疑うことが治療の発端となる.

重症度を評価するポイント
① 重症度と緊急度の評価
 意識障害の中でも緊急性を有する患者には,上記の救急処置を行いながら,手術の適応のある患者を選別し,手際のよい全身管理を開始することが初療時の要点である.

 以下のような状態の意識障害を有する患者は重篤であり,手術や適切な治療が難しければ,しかるべき施設への転送も考慮する.
 ①突然発症した高度の意識障害は,緊急性が高い.重症度も一般に高い.
 ②高度(JCS III 群,GCS7点以下)の意識障害が持続ないし悪化する場合.
 ③嘔吐や高血圧,徐脈は脳圧亢進(Cushing現象)を示唆し,低血圧は生命の危機ととらえる.呼吸パターンの異常は脳幹機能不全やアシドーシスの進行,気道の障害を考える.
 ④瞳孔の散大,左右不同,対光反射消失,共同偏視,異常眼球運動,除脳硬直肢位,咳嗽反射(バッキング)の消失.
 ⑤高体温や異常な発汗は視床下部体温調節中枢の障害を示唆する.

意識とその評価法(コーマスケール)
 意識清明とは周囲の環境と自己を認識し,外界からの刺激や情報に適切な反応を示すことができる状態ということができる.
 意識水準を正常に維持するためには,脳幹に存在する脳幹網様体賦活系からの投射を受け,大脳皮質が正しく活動をしていなければならない.また,視床下部では睡眠と覚醒のリズムがつくられており,ここから大脳辺縁系への働きかけがあると同時に,中脳を介して大脳皮質へも働きかけている視床下部調節系も重要な役割を果たしている.
 したがって,意識障害は広範な大脳皮質障害や脳幹網様体の障害,視床下部の障害によって起こっているはずである.その原因によって,障害が脳細胞の器質的異常によるものと,代謝異常などのように脳の機能的異常によるものとに分けることもできる.

 意識障害の程度は古典的には,全く反応のないものを深昏睡(deep coma),痛みや不快な刺激に多少反応する半昏睡(semicoma),命令に対して反応がある程度できるものを昏迷,意識混濁,傾眠(stupor,confusion,somnolence)などと呼んで区別していたが,定義や境界があいまいなため,最近は以下に述べるコーマスケールに準じて評価することが一般的である.

① Glasgow Coma Scale(GCS)(表 1[表])
 急性期の意識障害の程度を,患者の開眼,発語,運動の3つの要素での反応様式を点数化することで予後を判定するスケールである.外傷を中心に作成されたが,その他の原因による意識障害の判定にも広く利用されている.
 正常は15点,最悪は3点である.注意すべきは,合計点数が同じになる複数の組み合わせがあるため,点数が同じでも意味の異なる患者が存在することである.
グラスゴースケール.jpg

② Japan Coma Scale(JCS)(表 2[表])
 わが国においては,意識レベルを客観的,数量的に表現する方法として,太田らによる3-3-9度方式が汎用される.
 しかし,点数の大きさに実数としての意味はなく,統計学的処理などには向かない(300は30の10倍重症ではない).
 コーマスケールはだれが行っても一定の結果が出る点に価値がある.それによって時間的経過と病状の推移が把握できることになる.
 しかし,患者の意識状態はコーマスケールだけで,評価し得る程単純なものではない.実際に診察した際の患者の反応,言語の状態,運動の状態などもそのまま具体的に記載する習慣をつけておくことも大切である.
3-3-9.jpg

神経学的診察のポイント
① 瞳孔径と対光反射の有無
 一側瞳孔散大,対光反射遅延,そして対側の片麻痺があれば,瞳孔散大側のテント上病変によるテント切痕ヘルニアを考える.
 しかし,まれには瞳孔散大側と同側に片麻痺がみられることがあり,これは大脳脚が対側のテント端で圧迫されるためである(Kernohan 圧痕という).
 瞳孔が両側とも著明に縮瞳している際には,橋出血,脳室内出血,ヘロイン,モルヒネ,バルビタール,有機リン中毒も疑われる.
② 眼球位置と眼球運動
 眼球が正中に固定しているか,不随意に動いているか,偏位がないかをみる.
 意識障害でも人形の目現象が正常であれば,前庭神経から動眼・外転神経を介する脳幹反射は保たれている.
 ただし,人形の目テストは頸髄損傷を合併していると考えられる患者には行ってはならない.
③ 運動麻痺の有無
 患者の自発的な動き,あるいは痛み刺激に対する反応からどちらの上下肢の動きが悪いかを判定する.
 ヒステリー性昏睡ではarm dropping testで顔面をさけて上肢が落下するのが特徴である.
④ 四肢の異常肢位
 除皮質硬直は大脳が広範に障害されたときに出現し,上肢は肘関節で屈曲,手首,手指も屈曲し,下肢は伸展かつ内転し,足関節も底屈する.
 除脳硬直は中脳レベルの障害でみられ,上肢は伸展,前腕は回内し,下肢は伸展し足関節は底屈する.除脳硬直は除皮質硬直より障害が重篤であると考えられている.
⑤ 錐体路症状
 四肢の筋緊張の亢進(クローヌス),深部腱反射亢進,バビンスキー反射やチャドック反射などの病的反射は錐体路の病変で一般的にみられる.
⑥ 髄膜刺激症状
 項部硬直やKernig徴候はその代表で,くも膜下出血や髄膜炎に特徴的であるが,発症直後や最重症例では逆に所見を欠くことがある.

行うべき検査の手順
① スクリーニング検査
 緊急検査を考える時,表3[表]のごとく必須項目と選択的項目に分けて選ぶことが必要である.
 そのうちの,必須項目に属するものは,あらゆる意識障害患者に対するスクリーニング検査で時間外でも速やかに行われる体制が望まれる.
② 心電図と胸部X線撮影
 心室性不整脈や房室ブロックなど徐脈性不整脈などが,Adams-Stokes発作との関連において重要である.
 胸部X線は心血管系の異常のみならず,中枢性肺水腫や誤嚥の有無,挿管チューブやカテーテルの位置確認にも必要である.
③ 頭部単純X線撮彰
 少なくとも正面,側面,タウンの3方向.骨折線(新鮮もしくは陳旧性の有無),トルコ鞍の拡大,異常石灰化像,松果体偏位などをみる.次に述べる頭部CTスキャンのほうが情報が多く,これを優先的に行ってもよい.
④ 頭部CTスキャン
 頭蓋内病変が疑われる場合,神経症状に左右差や巣症状のあるもの,意識障害の程度が強い場合などに適応がある.必要に応じて造影剤増強法を行う.
 CTスキャンは出血性病変の診断にもっとも価値があり,腫瘍,膿瘍,梗塞などにも適応がある.梗塞初期,髄膜炎,脳炎,また多くの代謝性脳症では明確な所見を得がたい.
脳室やくも膜下腔の拡大や変形は頭蓋内圧亢進や占拠性病変による間接的所見として有益である.
⑤ 腰椎穿刺
 CT導入前ほど頻用されないが,血性髄液,細胞数・蛋白量増加,髄液圧上昇の有無をみる.他の検査で病因が明らかでない場合,特に頭蓋内感染症で診断価値は大きい.少しの細胞増多,圧上昇も有益な情報であることがある.
 脳炎などが疑われる時には,ウイルス抗体価検査のためにも多めに採取し,凍結保存しておく(同時期の血清も凍結保存).
⑥ 頭部MRI
 CTで見逃されやすい頭蓋内病変にも診断的価値がある.急性期に施行できれば有用な情報が得られる.
⑦ 脳血管撮影
 脳動脈瘤など頭蓋内血管性病変の最終的診断に不可欠である.DSA(Digital Subtraction Angiography)は侵襲が少ない.
⑧ 脳波
 てんかん(postconvulsive coma)の診断には必須である.大脳の活動性を反映する.脳病変の局在診断にも役立つことがある.
⑨ 聴性脳幹反応(Auditory Evoked Potential)
 Ⅰ~Ⅴ波までの各波形が同定され,その潜時の計測により脳幹機能を評価できる.
 潜時の延長や波形の消失はかなり重篤な脳障害にのみみられる点に注意.
⑩ 中毒物質検査
 アルコール,医薬品過量(鎮痛解熱薬,睡眠薬,向精神薬,その他),その他の毒物の定性定量は,原因不明の意識障害の診断には重要であるが,薬物・毒物の特定ができない時には検索物質の選択や同定が極めてむずかしい.
⑪ 細菌学的検査
 中枢神経系感染症や敗血症による意識障害などの場合,血液,髄液の細菌学的検査は,適切な抗生物質療法の早期開始のために重要である.
 エンドトキシンの定量は,グラム陰性桿菌や真菌感染の指標となる.
 ウイルス抗体の証明も確定診断に重要であるが,結果が得られるまでに時間を要するため,治療的意義はうすい.
⑫ 血液凝固検査
 潜在的血液疾患(白血病,血友病,ITP,TTPなど),DIC合併,抗凝固療法の副作用などに基づく出血性病変の診断に役立つ.
緊急検査.jpg

緊急的処置
 救急外来で短時間で行うことが可能な処置は,意識障害の診断と並行して(もしくは先行して)行うことが必要である.
 次に,緊急手術が必要かどうかを判断し,その適応がなければ,最適な保存的治療を選択することになる.
① 気道確保と換気,酸素投与
 高度意識障害の全例と循環器疾患,低酸素血症,ショック,各種中毒,頭蓋内圧亢進状態などにおいて広く適用される(例外は酸素化により組織障害が促進されるパラコート中毒).
② 輸液,アシドーシスの補正,低血糖の補正,不整脈や血圧の異常に対する治療,尿量確保
 これらは迅速に行う.
 代謝性脳障害が疑われるが,すぐには検査データが得られない時には,低血糖かWernicke脳症を考え,ブドウ糖とビタミンB1100mgの投与を試みるべきである.これらは,適切な処置により急速に意識が改善するが見逃せば致命的となる.
 体温補正,電解質補正などは急激な変動が病態をかえって悪化させることがあり,時間をかけて慎重に行われるべきものである(例えば,低体温からの復温時に不整脈がみられたり低ナトリウム血症の急速なナトリウム補正により橋中心髄鞘脱落が起こる可能性がある).
③ 鎮静
 意識障害患者の鎮静は,以後の意識レベルの変動を評価できなくなることを知った上で行う.
 通常,マイナートランキライザーを投与するが,無効時にはメジャートランキライザーやバルビツレートの投与も,患者の安全と治療への協調のために必要となる.
④ 感染症対策
 全身性感染症(敗血症や菌血症),化膿性髄膜炎などの中枢神経系感染症はもちろんのこと,肺炎などの二次的感染症の予防や治療の目的でも抗生物質投与が必要である.
 ウイルス性髄膜炎である可能性が高い時には,アシクロビルの静注を積極的に行う.
⑤ 脳浮腫対策
 頭蓋内圧亢進が認められる時には,過換気によるPaCO2 の調節,高張溶液や利尿薬投与,水分制限などがある程度効果的である.
 頭部外傷や一部の脳血管障害にはバルビツレート療法も行われる.
⑥ 頭蓋内減圧手術
 急性水頭症に対する脳室ドレナージのほか,mass effectの強い頭蓋内血腫や膿瘍には絶対的手術適応がある.

どうしても診断がつかない時に試みること
 意識障害の原因は極めて多岐にわたり,かつ複数の因子が関与していることもある.問診の再度の聴取や症状の発現様式の再検討を行う.
 それでも診断できない場合には,スクリーニング検査の繰り返しに終始せず,幅広い視野での検査計画が必要となる.しかしながら,これらによっても診断がつかず,対症療法(気道の確保,感染予防,体液栄養管理など)のみで回復してしまう例も少なくない.
フローチャート.jpg

投稿者 akiuchi : November 11, 2006 09:52 AM