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November 16, 2006

胎児治療

読売新聞の「医療ルネッサンス」はいつも興味深い最新医学の情報を紹介している。今回は胎児治療の特集だ。
1.双胎間輸血症候群のレーザー治療
2.洞不全症候群(単房心)胎児不整脈薬物療法
3.無心体双胎(カラードップラー超音波検査)
4.胎児胸水シャント術
5.胎児腫瘍、子宮外で開胸手術

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[医療ルネサンス]胎児治療(1)胎盤正常化し双子出産(連載) 読売新聞 2006年11月6日(月)

 ◇通算3978回
 おっぱいを飲む時には妹を手招きして一緒に飲もうと誘う心優しい長女、桜ちゃん(1)、積み木を投げたり、元気に走ったりとやんちゃな二女の怜(れい)ちゃん(1)。この双子姉妹は、胎児のうちに病気を治す「胎児治療」のおかげで生を受けることができた。
 東京都の梅宮聡さん(40)の妻、真理さん(37)は2004年10月に妊娠し、翌月に一卵性の双子と分かった。
 真理さんは「にぎやかな家庭にあこがれていたので喜びも2倍。胸がジーンときた」とうれし涙を流した。しかし、翌年1月中旬、都内の病院で妊婦健診を受けた時に状況は一変した。
 「双胎間輸血症候群という病気です。このまま放っておくと、赤ちゃんは死んでしまうかもしれない」。医師の言葉に夫妻は言葉を失った。
 双子は、一つまたは二つの胎盤を持って、酸素や栄養を母体とやり取りしている。この症候群では2人が一つの胎盤を共有し、胎盤表面または内部で双子の血管がつながり、一人の胎児から、もう一人の胎児へ血液が流れ込んでしまう。
 血液を送る胎児は貧血や腎不全などに陥り、血液を受け取る胎児は心臓への負担が大きくなり、心不全を起こすことがある。出産3000件に1回、一卵性の双子の10~15%に起こるとされる。7割以上で2児ともに胎児死亡となり、生まれても脳障害などが残ることがある。
 告知を受けた真理さんは病院の片隅で泣いた。すぐに胎児治療に力を入れる国立成育医療センター(東京都世田谷区)に転院した。
 胎児治療は、胎児の死産や生後の障害を防ぐために、胎児や胎盤などの病気を治す治療だ。同センターは特殊診療部長の千葉敏雄さん、周産期診療部長の北川道弘さんらが専門チームを作って対応している。
 双胎間輸血症候群では、母親の腹部に、子宮内を見る内視鏡とレーザー装置が一体化した、直径約3ミリの器具を入れ、胎盤上でつながった血管にレーザーを照射して血流を断つ。同センターは、この治療を2003年春から始め、現在までに約60件実施。半数は2児共に元気で、2児共に亡くなったのは1割以下だ。
 真理さんは昨年1月中旬、1時間ほどの治療を受け、無事成功。妊娠9か月目の5月末に出産。双子は「パパ、ママ」とおしゃべりし、障害はない。「2人の親になれて本当に良かった。生まれてきてくれてありがとうと言いたい」と夫婦は喜ぶ。
 日本では始まったばかりの胎児治療。確実に小さな命を救っている。

 〈胎児治療〉
 欧米で1960年代、胎児に輸血されたのが最初。80年代から尿道が詰まる閉塞(へいそく)性尿路疾患など様々な病気で行われるようになった。日本でも90年代ころから試みられた。双胎間輸血症候群に対するレーザー治療は、2002年7月の聖隷浜松病院(静岡県浜松市)の1例目以来、約170件行われている。

 写真=胎児治療で元気に生まれた桜ちゃん(右)と怜ちゃんを見守る両親(東京都墨田区の自宅で)

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[医療ルネサンス]胎児治療(2)母体に投薬、不整脈改善(連載)読売新聞 2006年11月7日(火)

 ◇通算3978回
 「産むかどうか、ご夫婦でよく話し合って下さい。産むと決断されたならば、全力で治療します」
 1999年2月、神奈川県立こども医療センター(横浜市)周産期医療部の医師らに、こう言われ、横浜市の自営業、森谷(もりや)喜道(よしみち)さん(37)、早苗さん(41)夫妻の気持ちは固まった。「せっかく宿った命。絶対に助ける」
 近所の産科医院で胎児の心拍の異常を指摘され、同センターでの精密検査の結果、心臓の拍動を起こさせる洞結節という部位の異常で、脈が遅くなる不整脈を起こす「洞不全症候群」と分かった。大人ならペースメーカー埋め込みの対象になる病気だ。
 そのほかにも、左右の心房に仕切りがない「単心房」という心臓の形態異常もあり、生まれても重大な障害を負う危険があった。しかし夫妻は「今から治療を始めれば、元気に育つ可能性もある」という医師の言葉に懸けた。
 周産期医療部新生児科の医師、川滝元良(かわたきもとよし)さんは慎重に経過を観察した。胎児の心拍数は通常、1分間に140~150あるが、妊娠7か月の時には半分以下の60台に低下した。
 「このままでは赤ちゃんが心不全を起こし、胎内で亡くなってしまう」と判断した川滝さんは、薬で脈を速くする胎児治療を行うことにした。
 母体に投与された薬の一部は胎盤を通過して胎児に届く。子宮の収縮を防ぐ切迫流産・早産治療薬として広く使われている塩酸リトドリン(商品名ウテメリンなど)が投与された。
 この薬は、脈を速くする作用があり、母体と胎児への一石二鳥の効果がある。胎児の心拍数は80台に改善し、心臓機能を保てるようになった。翌月、赤ちゃんは生まれるとすぐに心臓の拍動を促す電気刺激を与える治療を受け、生後6日に心臓ペースメーカーを埋め込んだ。
 ペースメーカーは生涯必要で、1歳半の時には、単心房を治す手術も受けた。今は小学1年生となった直美ちゃん。元気に通学し、先月の運動会では50メートル走で5人中3位になった。
 早苗さんは「胎児治療のおかげで娘がここにいる。病気を乗り越えて優しい子に育ってほしい」と話す。
 胎児の薬物治療は、不整脈のほか、副腎や血液の病気でも行われる。投与方法は母親が薬を服用したり、点滴をうけたりする形のほか、貧血などに対し、へその緒から輸血する方法なども行われ、少しずつ広がっている。

 ◇「血管の病気」ネットで動画など特集
 インターネットのヨミウリ・オンライン (http://www.yomiuri.co.jp/)では7日から、「医療ルネサンス 血管の病気」の画像による解説を公開します。ステントを使った最新治療法をアニメーションで解説、頸動脈狭窄(けいどうみゃくきょうさく)を克服した作曲家の服部克久さんら患者3人の、インタビュー音声付き写真も掲載しています。

 写真=薬による胎児治療を受けて元気になった森谷直美さん(左から2人目)を見守る川滝医師(左端)と両親(神奈川県立こども医療センターで)

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[医療ルネサンス]胎児治療(3)超音波検査で早期発見(連載)読売新聞 2006年11月8日(水)

 ◇通算3980回
 「赤ちゃん、見えますよ」。超音波診断装置で、子宮内のわが子の姿と対面する。今の産婦人科では必ず行われる検査で、これで胎児の発育がわかる。超音波検査の用途は広く、表面を見るだけではなく、心臓の検査などに使うカラードップラー超音波検査では、胎児の血流の状態を調べることもできる。
 東北地方のA子さん(22)の赤ちゃんは、この検査で命が救われた。
 双子を身ごもったA子さんは、妊娠5か月目の今年5月下旬、妊婦健診で胎児の1人の死亡がわかった。精密な検査を受けると、「無心体双胎(むしんたいそうたい)」という珍しい病気だった。
 一卵性の双子の血管は胎盤の中でつながっていることがある。通常、胎児の1人が何らかの理由で亡くなれば死亡胎児の血流は止まる。ところが、健康な胎児から死亡胎児に血液が流れ込み、すでに亡くなっているのに、体が大きくなることがある。これが「無心体双胎」だ。
 健康な胎児は、2人分の体に血液を送ろうとし、心臓に過剰な負担がかかるため、心不全を起こす。治療をしないと健康な胎児の方も5~7割が亡くなる。
 全国で年間30例ほどと推定される珍しい病気。それを早期に発見できたのはカラードップラー超音波検査を受けたからだ。
 母子は岩手医大病院(盛岡市)に送られ、6月初めに産婦人科講師の室月(むろつき)淳さんの胎児治療を受けた。
 全身麻酔を受けたA子さんのおなかに高周波のラジオ波を出す針を刺し、亡くなった胎児の血管にラジオ波をあてて血流を止める。治療は約30分。カラードップラー超音波診断装置で血流を見定めながら行われた。
 A子さんは先月3日、3620グラムの男の子を産んだ。「おっぱいを力強く吸い、とても元気。障害はなさそうで、このまま、すくすくと成長してほしい」と話す。
 近年、3次元で立体的に映し出す新しいタイプの超音波診断装置を備える医療機関も増えている。子宮内の赤ちゃんの顔を鮮明に映し出すことができるだけではない。頭の内部や心臓などを様々な断面で切って見ることが可能なので、頭に水がたまる水頭症や先天性心疾患などを正確に診断できるようになった。
 室月さんは「高度な検査技術の広がりや、妊婦健診を行う診療所と治療を行う病院の連携により、胎児の命が救われるようになった」と話している。

 〈カラードップラー超音波検査〉
 心臓弁の異常による血液の逆流など心臓病を調べるために循環器科で普及していたものだが、3次元超音波検査と並び、今では胎児治療に欠かせない検査となった。母子ともに負担がほとんどなく、総合病院の産婦人科などで導入されている。

 写真=3次元超音波検査で胎児の様子をチェックする室月淳さん(盛岡市の岩手医大病院で)
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[医療ルネサンス]胎児治療(4)胸水を排出、生存率向上(連載)読売新聞 2006年11月9日(木)

 ◇通算3981
 1996年春、妊娠7か月の赤ちゃんを診察した福岡市の九州大病院周産母子センター講師の月森清巳(きよみ)さん(46)の表情は急に険しくなった。
 胎児の胸腔(きょうくう)にたまった胸水が、肺や心臓を圧迫する「胎児胸水」。しかも、このため肺の成長が不十分だった。
 「このままでは、心不全を起こして亡くなる危険性がある」
 妊婦健診の超音波検査で見つかり、全国で年間600人以上生まれるとされるが、原因がわからないものも多い。この母親(29)も、自宅近くの産科医院で異常を指摘され、月森さんを紹介された。
 月森さんはこれまで、胎児胸水で亡くなった胎児を何人も見てきた。せっかく生まれても脳への血流不足から発達障害が現れることもあった。
 「なんとか、元気に産ませてあげたい」
 すぐに、直径2ミリほどの針を母親のおなかに刺し、胎児の胸水を吸引する治療を行った。
 しかし、1、2日後には再びたまってしまう。何度か吸引を繰り返したが、効果は薄い。月森さんは「このままでは命を救えない」と判断。胎児胸水とわかって2週間後、新しい胎児治療に踏み切った。
 胎児の胸に、直径約2ミリ、長さ約4センチほどの特殊な管を刺し入れて留置し、胸水を子宮内の羊水へと排出させるシャント(短絡)術だ。
 超音波画像で胎児の状況を見ながら、母親の腹部から専用の針を刺し、その先端に取り付けたシャント器具を胎児の胸にセットする。治療時間は約30分。赤ちゃんは治療後、胸水が減り、妊娠8か月目に生まれた。管は出産直後に抜く。
 この赤ちゃんは今、小学4年生となり、発達障害もなく、元気に学校に通っている。
 胎児胸水を治療しないと生存率は20%ほどで、生まれても発達障害が半数に残るとされる。月森さんらが一昨年までにシャント術や胸水の吸引治療を行った胎児では、生存率は44%に上がり、知能は7割で正常だった。
 月森さんは「このシャント術は救命だけでなく、生まれた後の障害を減らす効果もある」と意義を語る。
 胎児へのシャント術は、尿道が生まれつき詰まっているため腎機能が悪化する閉塞(へいそく)性尿路疾患などで、尿を膀胱(ぼうこう)から羊水へ排出する治療でも行われている。
 まだ治療実績が少ない胎児治療は保険で認められていない。より安全かつ有効な手法を確立して保険医療へつなげる努力が医療者に求められる。

 〈シャント術〉
 胎児胸水などシャント術は、国立循環器病センター(大阪府吹田市)、国立成育医療センター(東京都世田谷区)などでは、医療費に一部保険が使える先進医療制度に認められている。治療自体は、周産期医療の専門施設や大学病院の一部で行われている。

 図=胎児胸水を治すシャント術

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[医療ルネサンス]胎児治療(5)国内初、子宮外で開胸手術(連載) 読売新聞 2006年11月10日(金)

 ◇通算3982回
 「七海(ななみ)」と名前を決めたのは、胎児の性別が女の子と分かった妊娠5か月ころだ。埼玉県のC子さん(29)夫妻は七つの海を越えて自由に飛び回るような子に育てとの願いを込めた。
 その1か月半後の2003年6月初め。七海ちゃんのおなかに水がたまる異常が見つかり、県内の病院で精密検査を受けた。
 「赤ちゃんが元気に生まれる確率は1、2%しかない難しい病気です」。医師に宣告され、大きな衝撃を受けた。
 胸の半分を占める大きな腫瘍(しゅよう)ができて心臓や肺を圧迫し、心不全を起こすなど危険な状態にあった。胎児治療に取り組む国立成育医療センター(東京都世田谷区)を紹介され、すぐに転院した。
 診察した特殊診療部長の千葉敏雄さんは病状の重さに青ざめた。このままではほぼ100%亡くなるが、経過をみるか。それとも、すぐに出産させ、未熟児を治療するか。しかし、この方法も、心不全や脳内出血の危険性があり、救命できるか分からない。
 そして最後の方法は胎児治療だ。母親の下腹部を縦に切って子宮を開き、胎児の左上半身だけ露出させて胸を切開。腫瘍を取り除き、胸を縫合した後に再び胎児を子宮に戻し、発育させてから出産させる。
 米国では、この方法により50~60%の確率で胎児が無事に生まれているが、日本では1例も経験がない。
 千葉さんが、すべての選択肢を示したところ、C子さんは「命が助かる可能性が少しでもあるなら、胎児治療を受けさせたい」と申し出て、院内の倫理委員会からも了承を得た。
 C子さんは6月下旬、手術を受けた。胎児を開胸する本格的な胎児手術は国内初。手術自体は40分ほどで終わった。しかし、手術翌日、心臓機能が悪くなり、帝王切開で出産。その翌日、亡くなった。既に心不全が進んでいたのが原因だ。
 C子さんは「七海は1日しか体外で生きられなかったけど、出産後に抱くことができたので悔いはない。もっと胎児治療が進歩して、赤ちゃんの命を救ってほしい」と話す。
 日本の胎児治療は、まだ試行錯誤の段階だ。胎児を子宮外に出して行う手術は、この後も行われていない。一方、欧米では、七海ちゃんのような胎児腫瘍の手術が広く行われている。
 胎児治療は先天的な重い病気を根本的に治す治療法として期待は大きい。日本も研究に力を入れる必要がある。(坂上博)
 (次は「病院の実力 子宮・卵巣がん」です)

 〈現状と将来〉
 日本では2004年11月、産科医や小児外科医らが集まり、日本胎児治療学会(http://fetus.umin.jp/)を設立した。米国のNIH(国立衛生研究所)は、「胎児治療は2020年までに日常診療になる」と予測している。

 写真=胎児治療を行う専用の治療室を設置する病院も増えている(福岡市の九州大病院で)



投稿者 akiuchi : November 16, 2006 07:03 PM