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November 25, 2006
婦人科がん
読売新聞「医療ルネッサンス」に婦人科がんの最新治療に関する情報の連載が始まった。産科だけでとても婦人科のことまで頭が回らないがいつもアップツーデートな情報をキープしておかなければならない産婦人科専門医としてはありがたい企画だ。
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[医療ルネサンス]婦人科がん(1)神経温存し自然に排尿(連載)2006年11月14日(火)~
◇通算3983回
■病院の実力
2000年春、札幌市の主婦(39)は、生理でもないのに出血が続いているのに気がついた。近くの病院での診断は「子宮頸(けい)がん」。初めての子を産んでから2年しかたっておらず、「がん」という言葉がにわかには信じられなかった。
がんの大きさは3センチを超え、ごく早期とは言えなかった。北海道大産婦人科で、教授の桜木範明さん(当時は助教授)から説明を受けた。
「子宮の周囲の組織も取る必要があります。手術後に尿がうまく出なかったり、足が腫れるリンパ浮腫(ふしゅ)という後遺症が出たりするかもしれません。手術後の生活が少しでも楽になるよう最大限の努力をします」
自然に排尿できるよう、「骨盤神経温存手術」という手術が行われた。子宮の周囲の組織には、膀胱(ぼうこう)につながる神経が走っている。従来は神経も一緒に切断していたが、この手術では神経の部分を温存する。同大のデータでは今のところ、生存率は従来の手術と変わらない。
だが、この手術でも、すぐに元通り排尿できるわけではない。手術の影響で膀胱の排尿筋が強い緊張状態に陥り、尿が出せない人も多いからだ。主婦も手術後は尿意を感じなかった。この時期に無理におなかに力を入れて尿を出すと、筋肉が損傷して回復の妨げになる場合もある。
そこで、自分で尿道から膀胱まで管を入れて尿を出す自己導尿の方法を入院中に学んだ。退院後は排尿障害外来に通い、排尿筋のこわばり具合などを調べ、何時間ごとにトイレに行くかなど細かい指導を受けた。
3か月後、自然に尿意を感じるようになり、今では手術前と同じように排尿できる。「後遺症は覚悟していたけれど、早くから対応してもらい、楽になったと思う」と話す。
子宮、卵巣がんの治療では、治療後に様々な後遺症が出ることがある。患者は後遺症と一生つきあわなければならないことが多いが、治療段階から治療後まで継続的に後遺症に対処する医療機関はまだ少ない。患者は、治療成績と後遺症対策を詳しく聞いた上で、病院を選ぶ必要がある。
北海道大産婦人科には、リンパ浮腫の専門的な治療を学んだ医師もおり、大学のリハビリテーション科との連携で、診療体制も整いつつある。
桜木さんは「若い女性の子宮頸がんが増えている。がん治療だけでなく、その後の患者さんの生活の質への配慮がますます重要になってきた」と話している。
〈子宮、卵巣がんの後遺症〉
手術や放射線治療などでリンパ管が傷つくと、足などがむくむリンパ浮腫が出る。このほか、排尿、排便障害や腸閉塞(へいそく)、膣(ちつ)の委縮、更年期障害に似た症状が出ることもある。
図=「子宮と卵巣」子宮は頸部と体部に分かれ、それぞれ子宮頸がん、子宮体がんができる
写真=子宮頸がんに行われる骨盤神経温存手術(北海道大産婦人科提供)
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[医療ルネサンス]婦人科がん(2)子宮残して出産成功(連載)
◇通算3984回
■病院の実力
「早期の子宮体がんだと思います。命には代えられません。子宮を取る手術をした方が良いでしょう」
埼玉県の主婦A子さん(38)は2001年、がん専門病院でこう言われても、手術に踏み切れなかった。現在の夫と婚約中で、子どもが欲しかったからだ。
そこで、東大産婦人科を紹介され、出産まで子宮を温存する治療を受けることになった。ごく早期の子宮体がん患者が対象だ。
まず、がん治療が専門の講師、八杉利治さんのもとで治療を開始。がん細胞をたたく効果がある高用量の黄体ホルモン剤を毎日服用した。
定期的に子宮に細い器具を挿入して内膜をはがし取り、病理検査をした。薬の効きが悪く、通常なら半年間の治療を1か月延長し、ようやくがんが消えた。
続いて子宮体がんの発生を防ぐ中用量ピルに薬を切り替え、がんのない状態を維持した後、体外受精を受けた。今度は不妊治療が専門の講師、藤原敏博さんが担当した。
この治療も、生やさしくなかった。採卵のために使った排卵誘発剤の作用が強く表れ、腹水がたまって肺を圧迫、呼吸困難に陥った。緊急入院して、ようやく回復した。子宮体がん患者には、排卵障害のため、排卵誘発剤の作用が過剰に出る場合があるのだ。
半年間、体調を整えたうえ、女性ホルモンのはり薬で徐々に子宮内膜を厚くし、凍結保存した受精卵を子宮に戻した。
2回目の挑戦で妊娠。一昨年10月、元気な男の子を出産した。「だめでもともと、と夫と話し合って受けた治療ですが、子どもに恵まれ、毎日が充実しています」とほほ笑む。
だが、この治療ですべての人が出産できるわけではない。東大のデータでは、最初のがん治療で、25%の人には薬が効かず、がんが消失しない。この場合は子宮摘出が必要になる。不妊治療の段階でも、30%は妊娠しても流産する。
東大では、妊娠の効率を上げるため、がん治療後の不妊治療では最初から体外受精を行う。「再発と隣り合わせのうえ、子宮内膜も薄く不妊治療が難しい。がん治療の担当医と不妊治療医の連携がかぎ」と藤原さんは話す。
子宮体がんの子宮温存治療は生存率など効果が不明で、確立した治療ではない。出産後も再発の恐れがあり、定期検査が必要だ。
それでも、外来でできることなどから急速に広まっている。読売新聞社が実施した調査では、回答した274医療機関のうち195施設(71%)が実施しているとした。
治療を受ける前に、過去の治療実績と共に、不妊治療を担当する医師がいるかどうかも聞いておきたい。
〈婦人科がんと出産〉
子宮頸(けい)がんでも早期なら、がんとその周囲の部分だけを取って子宮を残す温存療法で、出産できる場合がある。卵巣がんは、両側の卵巣と子宮を取るのが原則だが、ごく早期で患者が出産を強く望んだ場合、がんができた側の卵巣だけを摘出し、もう一方の卵巣と子宮を残すことがある。
写真=不妊治療の経過について藤原さん(右)から説明を受けるA子さん(東大産婦人科で)
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[医療ルネサンス]婦人科がん(3)手術せず放射線治療(連載)
◇通算3985回
■病院の実力
千葉県の主婦、秋田由美子さん(36)は2004年秋、大量の不正出血があり、近くの病院に駆け込んだ。
担当医に「子宮頸(けい)がんです。状態はすごく悪い」と言われ、血の気が引いた。そのうえ、「手術すると後で足がむくんだり、排尿障害が出たりする」という。
下の子が1歳になっておらず、子育てに夢中だった生活が暗転した。
手術を覚悟して受診した千葉県がんセンター(千葉市中央区)で、婦人科部長の田中尚武さんから、意外な治療法の説明を受けた。手術せずに放射線を使う方法だ。「入院は長くなるけれど、お子さんも小さいし、後遺症の少ない放射線治療の方が良いと思います」
放射線治療部長の幡野(はたの)和男さんからは、秋田さんの病状だと5年生存率は90%である一方、後遺症として、まれに治療後、何年もたってから腸や膀胱(ぼうこう)に穴が開いたりすることがある--などと説明を受けた。
「この治療で生きられるんですか」。秋田さんが聞くと、「生きてもらわないと困るでしょ?」と幡野さん。
入院して週5日、5週間にわたり、放射線治療機で体外から放射線を当てる治療(外部照射)を受けた。これに加え、子宮に入れた細い管の中に小さな放射線を発する物質を挿入して、内側からがんをたたく「腔内(くうない)照射」を4回受けた。外部照射は1回5分足らずで痛みもないが、器具を挿入する腔内照射は強い痛みを伴った。
並行して週1回、抗がん剤治療を受け、1か月半後、2人の子が待つ家に帰った。放射線で卵巣の機能が失われ、生理がなくなった以外は、2年たった今も後遺症はない。「入院前と何も変わらない生活です」
子宮頸がんの治療成績は、放射線と手術は同等とされ、欧米では放射線治療が中心となっている。後遺症は一般に放射線治療の方が少ないが、腸や膀胱に影響が出て、人工肛門(こうもん)など手術が必要な後遺症が数%に出るという。
同センターは、これを防ぐため、1995年からMRI(磁気共鳴画像)などの診断を腔内照射の前に行い、がんの形に合わせて照射する「画像誘導下放射線治療」を取り入れた。「この治療を始めてから、重い後遺症が出た人は今のところいません」と幡野さん。
日本では手術が主体で、放射線治療という選択肢すら示されない場合も多い。「両方の治療を示し、長所短所を説明する必要がある」と田中さんは話す。
〈子宮頸がんの放射線治療〉
米国では、0~4期までの進行期のうち、1b期と2a期は放射線治療か手術かのいずれかを選択、2b期は手術でなく放射線と抗がん剤の併用を推奨している。国内では、読売新聞の調査に対し、79%が「2期までの患者に手術をせず放射線治療(抗がん剤との併用も含む)をする場合もある」と答えたが、ほとんどが「高齢などで手術できない場合に限る」としていた。
写真=(上)「子宮頸がんでは、放射線治療も手術と同じ治療成績が見込めます」と話す幡野さん(右)=千葉県がんセンターで
写真=(下)「放射線治療を受け、がんと言われる前とまったく同じ生活を送っています」と語る秋田さん
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[医療ルネサンス]婦人科がん(4)患者が分かる指針作りを(連載)
◇通算3986回
■病院の実力
この連載では、後遺症への対策や不妊治療医、放射線治療医との連携など、婦人科がんの病院を選ぶ時のポイントを紹介した。だが最大の問題は、肝心の治療方針が専門医の間でも時に大きく異なることだ。
先月、専門医で作る日本婦人科腫瘍(しゅよう)学会は、子宮体がんの治療ガイドライン(指針)を発表した。作成委員の東北大教授、八重樫伸生さんが記者会見で強調したのは、指針を作るための「科学的なデータがいかに少ないか」だった。
学会は、日本を含む世界の臨床試験の結果を集め、手術や手術後の放射線など58項目の治療について、どの程度推奨できるかをAからDまでの4段階に分類した。それなりの臨床試験の結果があり、「強く勧められる」(A)、「勧められる」(B)は合わせて16項目で、3割に満たなかった。半分の29項目が「C」で、「調査結果が一貫しておらず、勧めるだけの根拠が明確でない」だった。
科学的なデータに基づくと、手術の時にしばしば行われるリンパ節の切除は、治療効果があるかどうか、はっきりしていない。手術後に行う放射線治療も「骨盤内の再発は減らすが、生存期間を延ばすかどうか不明」なのだという。
このため、がんを取りきるため広く切除し、放射線や抗がん剤も積極的に併用する医師と、後遺症を減らすため治療は最小限にとどめる医師が混在し、これまでは病院によって治療方針がまちまちだった。
指針は海外の例も参考に、専門医の意見を集約し、現時点で最も妥当と考えられる治療法をまとめた。八重樫さんによると、科学的データが十分でない場合、欧米でも同じ方法で治療指針が作られる。
あいまいさが残るものの、患者が医師から治療法を示された際、それがどの程度の科学的データに基づいているか、多くの専門医はどう考えているか知る上で、指針は判断材料になる。
ただ、指針は医師向けで読みこなすのが難しい。八重樫さんは「今後、患者会の意見も聞き、一般向けの指針を作りたい」と話す。
子宮・卵巣がんの患者会は、一昨年に北海道で「アスパラの会」が、今年3月には東北大で治療を受けた患者を中心に「カトレアの森」が発足、各地に広まりつつある。
子宮体がん治療指針を読んだ「カトレアの森」メンバーからは「治療後の後遺症や副作用の対処法など、患者の生活に切実な情報も盛り込んでほしい」との意見も出た。
患者の視点に立った、わかりやすい指針作りが今後の課題になる。(館林牧子)
(次は「患者団体の力」)
〈婦人科がんの診療指針〉
日本婦人科腫瘍学会は2004年、「卵巣がん治療ガイドライン」を発表、今回完成した「子宮体癌(がん)治療ガイドライン」とともに金原出版((電)03・3811・7184)から出版されている。子宮頸(けい)がんの指針も作成中で、来年には完成する予定。
写真=患者会「カトレアの森」のメンバーと話し合う八重樫伸生さん(右上方、手前)=仙台市の東北大で
投稿者 akiuchi : November 25, 2006 11:42 AM