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November 27, 2006

医療費抑制策、見直しを

「医慮崩壊」の小松先生も現在日本で進行している低医療費政策(一方で安全向上政策の強要)を批判しているがこれは小泉政権の負の遺産ということができるだろう。鎌田實先生のこれからの活動にも期待している。今井先生のあとをついで政治家になるお考えはないのであろうか?


[ポスト小泉を考える]医療改革 二木立氏、鎌田實氏 読売新聞 2006年9月13日(水)

 聖域なき改革を旗印に、小泉政権は、医療に効率と経済性を求め、医療費抑制を図った。一方、相次ぐ事故や地方の医師不足など、医療を巡る国民の不安は尽きない。今後の課題は何か。
     ◎
 ◆医療費抑制策、見直しを
 ◇二木立氏
 厚生労働省は8月末、2004年度の「国民医療費」が史上最高の32兆1000億円に達したと発表、新聞各紙は「医療費の膨張傾向」に警鐘を鳴らした。しかし、この年に日本の医療費水準、つまり国内総生産(GDP)に対する医療費の割合が、主要先進7か国中最下位になったことは知られていない。
 実は、主要先進国の中で医療費水準が一番低い国は、長らく日本ではなく、イギリスだった。しかし、小泉政権が厳しい医療費抑制政策を続けたのとは逆に、イギリスのブレア政権は2000年以降に医療費増加政策に転じ、国営医療の予算を着実に増加させた。その結果、2004年には日本が最下位に転落した。
 その上、小泉政権がこの間行った健康保険本人の3割負担化、高齢患者の1割負担化と「一定以上所得者」の2割負担化などにより、医療費の中の患者負担割合は急増し、主要先進国で最高になった。
 つまり、日本は小泉政権の5年間の医療改革により、医療費水準は主要先進国の中で最低だが、患者の負担割合は最高という、きわめてゆがんだ医療保障制度を持つ国になったのである。この間社会問題化した医療事故の多発、救急医療や産科・小児科医療の荒廃の背景には、このような「世界一」厳しい医療費抑制政策があると私は考えている。
 先の通常国会で重要法案中唯一成立し、小泉政権の「置きみやげ」と言える医療制度改革関連法は、健康保険法改正、老人保健法改正、医療法改正、介護保険法改正を含んだ大規模な制度改革である。これにより、公的医療費抑制のために、高齢者を中心とした患者負担の一層の増加と医療機関に支払う医療費の抑制が目指されている。
 この制度改革では、これ以外にも、医療費抑制の長期的対策として、生活習慣病対策と平均在院日数の短縮の二つが掲げられている。しかし、生活習慣病対策による医療費抑制効果を学問的に証明した研究は世界的にも存在しない。この点は、介護保険制度改革により目指されている介護予防による介護費用抑制についても同じである。
 平均在院日数の短縮のために療養病床を6割も減らし、有料老人ホーム等に転換することが目指されているが、これは公費・保険料から患者への長期療養費用の負担のつけ回しにすぎず、しかも退院する患者の受け皿を十分に整えないで療養病床の削減を強行すると、「医療難民」「介護難民」が大量発生する危険がある。逆にこの対策を十分に行えば、公的医療・福祉費の抑制効果はごく限られる。
 そのために、私は、国民皆保険制度を維持しつつ、医療の質を引き上げるためには、「世界一」厳しい医療費抑制政策を見直すことが必要だと考える。その財源としては、所得税の累進制の強化、たばこ税の引き上げ、消費税の引き上げ、および社会保険料の引き上げを適切に組み合わせる必要がある。
 ただし、この点に国民の理解と合意を得るためには、個々の医師・医療従事者と医療機関の自己改革も必要だ。加えて、医療・経営情報公開の制度化、医療の非営利性・公共性を高める医療法人制度改革、専門職団体の自己規律を強化する改革など、制度の改革も不可欠だと考えている。
     ◎
 ◇にき・りゅう 日本福祉大学教授。専門は医療経済・政策学。著書に「医療改革と病院」など。59歳。

 ◆悪化する現場、改善急げ
 ◇鎌田實氏
 日本の医療が危ない。小泉政権の5年間で、医療現場の環境が悪化している。産婦人科医の不足で自分の住んでいる町でお産ができなくなったり、小児科医がいなくなったり、少子化対策を叫んでいるのにおかしなことだ。
 長野県諏訪市で30年以上、地域と一体になった医療の実現に取り組んできた。地域医療の充実で、長野県の医療費は全国一低いといわれる。しかし、県内のある中核病院では最近、麻酔科医の不足で緊急手術ができなくなった。100床未満の地域医療を担ってきた病院の医師不足はさらに深刻で、救急外来の当直を組むのが大変になっている。
 日本は先進国の中で、対GDP医療費が極めて低い。それでも世界一の健康長寿国を実現できたのはなぜか。アメリカの同規模の病院に比べれば5分の1という少ない医師数で忙しく働き続け、医療の崩壊を防いできたのだ。
 勤務医の労働時間は週64時間、研修医は92時間、なんと150時間働く研修医がいた。ぼくが50歳で病院長引退を考えたのも、あまりの激務とストレスだったから。
 全国1200の医療機関で年間約18万3000件の事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」事例があったという。怖い話だ。医師や看護師が忙し過ぎるのだ。平均在院日数が短くなって、病棟の入院患者は重症化し、危険が増している。この5年間で、看護師不足も顕著になってきた。
 世界保健機関(WHO)が日本の医療は、世界一いい医療、と言ってくれても、国民は満足していない。本年1月、読売新聞が行った医療に対する世論調査にコメントを頼まれたが、49%の国民が日本の医療に満足していなかった。医療を受ける側も提供する側も不幸なのだ。これを改善するのは政治の仕事だと思う。
 だからといって、アメリカのように市場原理に医療を任せればいいのだろうか。アメリカでは自己破産の原因の第2位が医療費の負債。医療保険に入れない人が4000万人もいる。医療だけはアメリカを見習わないで欲しい。
 国民が納得、安心できる医療システムを構築する必要がある。まず、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均ぐらいに国民医療費をあげること。現在32兆円の医療費を34兆円に、2年後の診療報酬の改定時に増額できないだろうか。しかもこれを、国民負担を増やさず、経済の回復に水をささずに行いたい。
 新政権が政治的判断ですぐにできるものもある。巨額の予算が使われる事業の見直しや資金配分の点検だ。核燃料サイクル施設、ダム、新幹線など、対象とすべきものは幾つもある。
 国民負担は一銭も増やさずに、国民が望んでいるがん医療や小児救急、在宅医療などに、この2兆円を重点的に投入する。老後も、大病しても安心の国になる。そうすれば1400兆円以上の個人金融資産を持つ国民が、自分の人生を豊かにするためにお金を使い出し、日本経済はさらに良くなる。
 良い医療を国民は望んでいる。多くの医師たちも、患者さんの声をゆっくり聞いて、あたたかな医療をしたいと望んでいる。国民が安心できる医療システムをつくるのが政治の役割だと思う。新政権に期待している。
     ◎
 ◇かまた・みのる 諏訪中央病院名誉院長。内科医。国際医療援助にも詳しい。著書に「がんばらない」など。58歳。

 ◆国民が納得できる制度に
 小泉政権のもとで、医療が厳しく「改革」を迫られたのは、国民皆保険制度による「格差」のない医療が長く続き、コスト意識の希薄さや効率の悪さを重ねてきたことが一因ともいえる。人口の高齢化などが加わり医療費増加が深刻化したのだ。
 保険診療と自由診療を一緒に行う混合診療の解禁論や株式会社の医療参入論など、改革を求める議論は過熱したが結局、抜本的改革には至らなかった。WHOも世界一と評価した国民皆保険の平等な制度を、根本から変えることは不可能だと見なされたからではないか。現在の制度の良さは認めた上で、持続可能で良質な医療の提供体制をどう確保するか。それを丁寧に論ずることが、求められる改革の姿だと思う。
 深刻なのは、日本の医療が破たん、崩壊の瀬戸際にあることだ。地方の医師不足や医療安全などは、現場の努力で解決できるものではなく、医療の根幹にかかわる問題だ。医療費抑制政策の見直しを、という、二人の識者の一致した主張は重く受け止めるべきだろう。
 ただ、過剰だと指摘されてきた薬剤や検査など、省くべき無駄はもうないのかという点検も不可欠だ。患者負担は増える一方なのに、一向に安心出来ない医療、というのでは、国民は納得することはできない。(解説部 南砂)

 図=主なOECD加盟国の対GDP医療費

 写真=二木立氏
 写真=鎌田實氏
 写真=救急医療現場の医師たちの労働条件は過酷だ。産科、小児科などとともに医師不足の一因になっている(東京都内で)

[読売新聞

投稿者 akiuchi : November 27, 2006 12:21 AM