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December 03, 2006
漢方薬の問題 -高橋 晄正さんの訃報
宇井純氏の死とともに思い出した高橋晄正氏も2年前に逝去されて今はこの世の人ではなかった。学生時代に弘前大学で社保研主催の特別講義を受けた記憶がある。晩年はあまり名前も聞かなくなったのでどうしていたのか少し不思議に思っていたのだが横浜国大の中西準子先生の雑感に詳しい解説が追悼文として掲載されていた。漢方薬を批判して市民運動から干されたという生き方に高橋晄正らしさを感じた。学生時代に大きな影響を受けたジャーナリスト本多勝一の『はるかなる東洋医学へ』を読んだときのうんざり感はこの辺の問題と関係があるのだと思う。本多勝一も堕落したものだ!
雑感282-2004.11.24「漢方薬の問題 -高橋 晄正さんの訃報に接して-」
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak281_285.html
11月10日、各紙は高橋 晄正さんの訃報を掲載した。亡くなったのは11月3日、心不全のためとある。86歳だったとのことで、若い方の多くは、名前も知らないかもしれないが、薬害のことで活躍し、医学に科学を持ち込んだ功績で有名。
非常に有能な人だったが、東大医学部での最後のポジションは講師だった。講師より上にはいけなかった。余りにも有能なために、そして、薬害と闘ったがために、日本の古い医学の体制と闘ったがために。
個人的な思い出
高橋さんは、本当に頭の良い人だった。かつて、こういう話を聞いたことがある(直接伺った話ではあるが、或いは、記憶違いがあるかもしれない)。
高校のとき、自分はノーベル賞をとろうと思って物理学を勉強していた。ところが、ある時、これではノーベル賞はとれないと思った(*)。そこで、医学部に進もうと考えた。そして、東大医学部に進んだ。
ところが、医学が“科学”でないこと、臨床の大家が、自分の直感的な判定に盲目的に自信をもっており、それで薬効が判定され、医学がその経験の伝承に終わっていることに驚き、がっかりした。人間の命を守る医学に“科学”を持ち込みたいと考えて、統計学や推計学を取り入れて、「計量診断学」の体系を作り上げた。
統計学を使うと、薬効ありとされているものが、そうではないとなることに気づき、それで、薬の薬効はどのくらいか?また、副作用は?という解析に入っていった。
スモン病(整腸剤キノホルムの副作用でおきた神経障害)裁判に積極的に関与した。また、グロンサンやアリナミンの薬効は証明できない、二重目隠し法(二重盲検法)で調べられていない(当時)、副作用もあると言い始めて、所謂「薬害」専門家みたいになっていった。
このことで、東大医学部・製薬会社と対決することになった。それが、マスコミと決定的に対決することになるとは、その時は理解していなかった。製薬会社は、民放、各種新聞雑誌の大スポンサーだから、薬の問題をとりあげることが、結局NHKを除く全マスコミと対決することになることを後で知った。これは厳しかった。本人の弁である。
(*)なぜ、ノーベル賞はとれないと思ったかについてどのような説明を高橋さんがしたか、どうも思い出せない。誰かが解いてしまった問題を自分はどうしても解けなかったのか、戦時下であったためか、体力的なことか、伺ったときは、なるほどと思ったのだが、今は、思い出せない。
薬害
東大では物療内科に属する医師だった。病院で患者さんを診る仕事もしていた。私が最初に高橋さんの文章を見たのは、グロンサンに薬効がないという内容だった。当時、統計学の重要性も知らなかったのだが、高橋さんの論理のするどさに感銘を受けた。
薬効判定に二重目隠し法などが取り入れられていなかった時代のことである。我が国で、このような科学的な検証方法が取り入れられるようになったのは、国際的な圧力(日本の方法では、外国の試験ではパスしない)と、高橋さんの功績である。高橋さんの主張は、西欧の流れを汲んでいるが、西欧医学の中でも新鮮な主張があった。
グロンサン問題以前から、サリドマイドやスモンなどの薬害問題に取り組み、1970年には、「薬を監視する国民の会」を作り、また、「くすりのひろば」というレベルの高い小冊子を出していた。それは西洋医学、現代医学の批判という側面を強くもつ内容だった。そして、私が高橋さんの名前を知る頃には、市民運動の中では、まさに神様のような存在になっていた。
漢方薬
ところが、1980年代後半になって、高橋さんは市民運動から厳しく批判され、攻撃される存在になってしまっていたらしい。ある時、友人からそのことを聞かされて驚いた。「どうして?」「高橋さんが、漢方薬の批判をはじめたから。確かに、高橋さんの言うとおりだと思うけど、あそこまで強く批判しなくともいいと思うのだが。今までの高橋シンパは、ほとんど批判派になっている、なぜ、かくも孤立化の道を選ぶのか?」と友人は言った。
私は、高橋さんが漢方薬について書いた物を読んでみた、ごく当たり前のことが書いてあった。漢方薬も薬だから、効く場合もあるが、呑み方や量を間違えると害になる、漢方薬は、西洋医薬に求められている「二重目隠し法」での効能検査が行われていない(**)、にもかかわらず、一括保険適用になった。
漢方は、複合薬だから、その成分の一つがその人の病気に効く場合も、他の成分は害になることもある。複合薬だから、効果的だというのはおかしい、むしろ、危険である。効能が弱いので長期に服用することになるが、この長期服用がむしろ問題を起こしやすい、すべての薬を長期に服用していいか、どうか、疑問があるということが書かれていた。敢えて孤立化というのではなく、当たり前のことを言っているだけだ、私はそう思った。
(**)現在では、漢方薬についても、二重目隠し法で効能試験が行われているものがある。しかし、その結果を見ると、通常“この薬はxxに効きます”と言われている効能と余りにも、隔たりがあることがあり、これはこれでいいのか?疑問が残る。
講義
高橋さんの退官後かなり経った頃、確か1993年頃ではなかったかと思うが、私の研究室で長時間、講義をお願いした。
まず、統計学の講義。この時のテキストを、私は今でも使っていて、BSEのリスク計算のときもひっぱり出した。
つぎに、ダイオキシンのリスクについて(ダイオキシンのリスクは高いという立場だった)。
三番目に、漢方薬について。
そのとき、高橋さんがサイン入りの本を下さった。「恐るべき検証結果 漢方薬は危ない-薬効、副作用、安全性のウソを問う-」(ISBN 4-7667-0226-3)(発行所 経済界、1992)である。この本は、今でもAmazon.comで買うことができる。
漢方薬の問題点の例
この本には、漢方薬の薬効評価の非科学性が書かれている。その他に、使い方を誤ると大変なことになる例がいくつか書かれている。その一つがチョウセンニンジンである。ニンジンには、血圧を上げてしまう効果があると書かれている。
「気分を高揚させる効果」があるので、病気が快癒していると感じがちだが、それは必ずしも病気が治っているのではないこと、特に血圧の上昇には注意が必要と書いている。確かに、二重目隠し法で検査した場合に、ニンジンに認められた効果は、この「高揚感」だった。
この講義は学生達に大きなショックを与えた。いつも、ニンジン入りのお茶やチョコレートなどをおみやげに買ってきていた韓国からの留学生もすっかり元気を無くした。漢方を信じている学生もしょげかえっていた。
「何故、漢方薬の研究をはじめたのか?」と私は聞いた。「当初は、西洋医学の欠点を補うものが漢方にあると思って勉強を始めた」との答えだった。
研究者を切り捨てる市民運動
市民運動のまさに神様であった高橋さんは、漢方薬の危険性を指摘するようになってから、市民運動から「敵」のように攻撃されるようになった。市販の(西洋医学の)薬の薬効試験に問題があると指摘したことで、市民運動では尊敬された。
しかし、西洋医学の薬の問題点を摘出し、検証するために使われた同じ科学を用いると漢方にも問題があることが分かった。いや、もっと大きな問題があった。だから、訴えた、漢方薬は危険と。
それを市民運動は認めない。西洋医学はダメだが、漢方は良いと思っているから。
よくあることだ。できれば、かつて高橋さんを崇拝した人々が、漢方についての高橋さんの警告にも耳を傾ける日まで、生きてほしかった。それが実現しない内に、行かれてしまったのは残念である。
残念だが、高橋 晄正さんのご冥福を祈りたい。功績を称えたい。苦言を甘受したい。
追記:高橋さんは、グロンサンにもアリナミンにも薬効がない、副作用の可能性があると主張した。この二種の薬は今でも販売されており、薬効については、今でもしばしば疑問が出されているが、副作用はないとされている。
では、高橋さんの提起した副作用とは何だったのか?このことを説明したいと思ったが、どうも今ある資料では“憶測”に近くなるのでここでは止めることにした。書き方によっては高橋さんの仕事に対してネガティブな印象を与えるし、また、逆に、書き方によっては、今でも売られている医薬品に傷をつけかねない。
その後の状況を必ずしも、私が丁寧に追っていないので、私の知っていることに偏りがある可能性も大きい。そこで、今回はやめることにした。よく知っていることなら、このことについて勇気をもって書くべきだと思ったが、どう考えても自分の不勉強さではだめと判断し、あきらめた。どなたか、代わりにこのことについて書いてくれると嬉しい。
***
主要な業績の説明
「武谷弁証法を経とし、推測統計学を緯とした」高橋の研究は、一貫して、科学的医学の方法の確立と実践であった。その業績は、計量診断学、薬効評価、食品公害の原因究明等、多分野にわたるが、使用した方法と基本理念は同一のものである。高橋の出発点は、医学が科学であるならば、新米の医者でも老練な大家でも同じ診断に至る方法があるはずだという信念を実行に移したことである。また、治療や予防においても、その効果を推計学で評価しようとして、とくに薬物療法の評価については二重盲検試験が必須であることを強く主張した。そのうえで、非科学的医学を生む医学界の構造を批判し、それを自分の研究の成果に基づいた市民運動として持続させた。また、漢方医学に早くから注目しつつも、代替医療として賞賛する方向へは向かわず、科学的評価を経ない漢方薬を否定した。
多くの啓蒙書を含む著書を執筆し、厚生省や医学者への公開質問状、大学、市民講演会などあらゆるメディアを用いて、科学的評価に耐えない医療がいかに危険か、無意味かを訴え続けている。科学的認識に基づき、医学の不確実性を克服しようとした高橋にとって、医療の科学性と倫理性は密接に結びついたものである。その上で、大学、医師会、厚生省、製薬会社等の企業が、非科学的医学のための連携組織となっていることの反社会性を告発している。
●計量診断学
高橋が臨床医の個人技ではない科学的医学の方法を確立しようとしたとき、拠り所としたのは、『少数例のまとめ方』を著していた増山元三郎からの指導であり、フィッシャーの実験計画法であった。最初に試みたのは、肝臓病の診断である。患者データから手回し計算器を使って特別函数を求め、それによって肝機能を診断する。結果は、経験豊かな医師に匹敵するほどの正確な診断ができた。さらに、心臓病や脳腫瘍でも、計量診断学の方法が有効なことを確かめた。高橋は、以上について著書『新しい医学への道』(紀伊国屋書店、1964年)にまとめた。これは高橋の進む道を宣言した記念碑的著作である。
●二重盲検試験の必要性を主張
高橋は、「使った、治った、効いた」の「3た論法」で薬を使うのではなく、二重盲検法(評価しようとする薬Aと有効成分の入っていない偽薬<プラセーボ>Bを用意し、患者を2群に分けてA、Bいずれかを使用するが、試験終了までは担当医も患者も使用中の薬がAとBのどちらかわからない目隠し状態にしておいて、両者の有効性、安全性を比較する方法)による評価を経るべきであると主張した。患者の自然回復力、医師、患者双方の予断や期待による思いこみを排除する科学的方法であるとして、高橋はこれを高く評価し、当時もっと簡単な比較試験さえ行われずに承認、市販され、大量に使われていた強肝薬、保健薬などを無効かつ危険な薬として、名指しで批判した。
効かない!? 漢方薬Q&A
高橋晄正 著,ラジオ技術社
漢方の体系,思想,果たして漢方は効くのかどうか,「漢方薬に副作用はない」というのは本当か,など漢方に科学の光をあてた良書です。「はるかなる東洋医学へ」(本多勝一,朝日新聞社)などに感銘を受けてしまった人は,毒消しのためにこの本を読まれることを強くお薦めします。
『はるかなる東洋医学へ』(本多勝一)をきる!
この題目は「ハインズ博士『超科学』をきる」を完全に意識しています。
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「悪書」とは何か?この問いに対する答えは,本をどう評価するかによると思いますが,「世間に不正確な情報を流布する」ことを「悪書」の定義とするならば,この「はるかなる東洋医学」は大変な悪書です。しかも,ことは医療に関係することですから尚更罪は重い。
さて,この「悪書」では,
個人的な体験を一般化する
少数の失敗例をもって「西洋医学」を体系ごと否定する
定義の曖昧な「気」等を用いて理屈付けする
東洋医学に二重盲検法は馴染まない,など現代科学の検証を逃れる屁理屈をこねる
漢方薬には副作用がない,などと事実に反することを書いている
科学的な嘘が多過ぎる
など,本多勝一氏が似非科学を信奉する人であることを御自ら余すところなく実証しています。これは滅多にない貴重な本でありますので,懐疑主義者を自任するGとIが,その内容の凄まじさを紹介してゆきたいと思います(これは両者の合作です)。
世の中の”本多信者”の皆さん,目を覚ます良い機会です。まずは冷静になって以下の文章をお読みください。
なお,Gこと後藤文彦の「買ってはいけない! 本多勝一著『はるかなる東洋医学へ』」も是非参照ください。
投稿者 akiuchi : December 3, 2006 11:32 PM