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December 15, 2006
[どうする地方](15)産科医不足 安心のお産、連携頼り
高知、浜松、宮城と日本のお産を巡る厳しい状況を紹介。浜松の大谷先生のところはセンターから1kmの距離で開業しているからできるとしかいいようがない。62歳の一人医長を助けるためにはじめたという宮城県の院内助産所も危なっかしいな。やはりお産が儲かるということにならなければ産科医は増えないのだろうか?
[どうする地方](15)産科医不足 安心のお産、連携頼り 読売新聞 2006年12月14日(木)
お産を扱う病院や診療所が各地で急速に消えつつある。地方では車で1時間以上走らないと、産む場所を確保できない場合も増えた。過酷な勤務などが原因で産科医が激減しているためだ。奈良県大淀町では8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明になった妊婦が19病院から転院を断られて死亡、大きな社会問題になった。危機的な状況にある産科医療をどうすれば立て直せるのか。地方病院の実情と、病院・診療所の連携や助産師の活用で苦境をしのぐ現場から、対策を探った。
◆産声が激務の支え/高知・安芸
日本産科婦人科学会が昨年実施した調査で分娩取り扱い施設の常勤医師数が全国最下位、分娩施設数(助産所を含む)は下から3番目だった高知県。その中でも産科医不足の深刻な地域が、安芸市を中心とした東部の安芸地区(安芸保健医療圏)だ。約1130平方キロ、大阪市のほぼ5倍に及ぶ広大な地域の中で出産を扱う施設は同市内の県立安芸病院だけ。ここで篠原康一医長(39)は2004年春から、同科1年目の医師と2人で産婦人科医療を支え続けてきた。
勤務ダイヤは厳しい。平日は午前8時半から午後5時過ぎまで外来患者約40人、病棟患者約10人の診察や、週2回の手術を担当。その後もカルテ記入などの雑用で同10時ごろまでの残業が多い。帰宅して一息ついても、救急患者治療のための緊急呼び出しはしばしば。土、日曜日の午前中は病棟回診や不妊外来で出勤、夜間当番を週に5~6回は担当する。年末年始も休みはなく、秋に3日間解放されるのが唯一の長期休暇だ。
同病院での出産は月に十数件。陣痛促進剤などを使わない自然分娩を原則にしており、深夜や未明の分娩も多い。助産師とのチームワークでこなすが、帝王切開などリスクのあるケースもあり処置に追われる。「1日平均14時間は働いているかな。赴任以来、ぐっすり眠れた記憶がない。けれど、もう慣れました」と苦笑いした。
激務の支えは誕生の瞬間。「赤ちゃんの元気な産声を聞き、母親のほっとした笑顔を見ると疲れが吹っ飛びます。家族の一生の記憶に残る出産という大仕事を支援する職業に誇りを感じる」と話す。
しかし、篠原医師が過労で倒れたら、同病院産婦人科は休診に追い込まれかねない。
一方、安芸地区に住む妊婦の不安も大きい。同病院から約60キロ離れ、徳島県境に近い東洋町に住む主婦、大黒里絵さんは9月末に同病院で長男を出産した。「安芸病院までは車で1時間半かかり、臨月に入ってからは、救急車かマイカーの中で産むことになるかもと毎日びくびくしていた。産気づいてすぐ、夫に送ってもらえて事なきを得ました。もう1人産むつもりですが、次はどうなるかと今から心配。安心して産める場を何とか確保してほしい」と訴える。
厚生労働省は産科医不足を緩和する対策の一つとして、各地域の拠点病院に医師を集め、勤務環境の改善と医療の安全性を確保する集約化・重点化計画を打ち出している。しかし、産婦人科医が少ない地方では、計画の推進が極めて難しい。家保英隆・高知県医療薬務課長は「高知市を中心とした地域以外では、集約化せよと言われても、それに見合う医師がもともといないのだから無理。現状維持が精いっぱい」と打ち明ける。
◆病院・診療所で分担/静岡・浜松
静岡県浜松市の県西部浜松医療センター産婦人科の外来待合室。他の病院なら患者が詰めかける午前中でも閑散としている。スペースも通常の3分の1ほど。妊婦健診などの通常診療は周りの診療所にまかせて、出産は同センターでと役割を分担する「オープンシステム」が定着しているからだ。
同科の医師5人が外来を担当するのは週各1~2回だけ。「診療所との連携のおかげで、外来にあてる手間暇を省けて体力を温存でき、リスクの高い入院患者や深夜の救急患者の診療に打ち込める。その分、医療の安全性が高まる」。前田真・周産期センター所長(54)は、システムの利点を説明する。
同センター産婦人科(30床)では、赤ちゃんの約70%が同システムで生まれ、このうちハイリスク妊婦約220人の出産も無事故でこなしている。年間出産件数(約1100)は前田医師が赴任した12年前の5倍に増加、救急患者も愛知県東部から神奈川県小田原市付近までカバーし、24時間受け入れている。浜松市内では、このシステムが1990年代後半から普及し始め、産科を持つ6病院すべてが診療所にベッドを開放している。
患者はまず診療所を受診。正常出産が見込めれば、そのまま診療所で定期健診を受け、陣痛が始まると、事前に決めておいた病院に入院する。初診や健診時にリスクの恐れがわかれば、診療所の紹介で医療センターなどへ入院。原則として院内主治医と、紹介した開業医が院外主治医として共同で診療する。予定された帝王切開など比較的簡単な手術は院外主治医が執刀、前置胎盤など難しい手術は共同であたることが多い。
同センターから約1キロ離れた「おおたにレディースクリニック」院長、大谷嘉明医師(50)は、11年前の開業と同時に同センターと連携を始めた。
分娩設備を持たず、年間500件近い出産はほとんど同センターにまかせるが、全面委託ではなく、外来診療を終えた午後8時過ぎから毎日欠かさず同センターへ出向いて自分の患者(約10人)を約1時間かけて回診する。手術が必要になれば、火、金曜の午後に執刀。センターの産科医が助手を務め、麻酔医や看護師が支援する。
大谷医師は「診療と分娩を1人で担当するのは心身の負担が大きく、診療に集中できるのはすごくありがたい。手術の際は信頼できるスタッフと高度な医療機器に囲まれ、難産にも安心して取り組めて手術の腕を保てる」と話す。
地方でも産科医が4~5人以上いる受け入れ病院が近くにあれば、オープンシステムを運用できると大谷医師は見る。可能な地域では導入を進めてはどうだろう。
◆助産師パワー活用/宮城・白石
「お父さん、次はほっぺをふいてあげて」。助産師の渡部輝子さんに抱かれ、生後初めての沐浴(もくよく)を体験する赤ちゃん。父親の佐藤聖さんがガーゼで顔を優しくなでると、気持ちよさそうな表情を見せた。そばで妻の春美さんがほほえみながら見守った。
公立刈田綜合病院(宮城県白石市)が昨年10月から、東北地方で初めて開設した院内助産所「マタニティーホーム」で誕生した9人目の新生児だ。春美さんは「15年ぶりのお産で、予定日より遅れて不安でしたが、助産師さんが体位や足の踏ん張り方を丁寧に教えてくれてリラックスできました。100%満足です」と振り返った。
同病院では妊娠20週目で、正常妊娠であり自然分娩が可能と診断された妊婦に、医師に診てもらいながら産むか、助産ケア中心の院内助産所にするかをまず選んでもらう。助産所を希望すれば、その後は専任助産師の渡部さん、遠藤文子さん、梶川里子さんがほぼマンツーマンで対応、腹部計測などの定期的な健康診査を担当する。
入院は陣痛が始まってから。トラブルが起きる恐れがありそうな場合を除き、産科医は出産に立ち会わない。お産は陣痛室に敷いた3畳間のふとん上で。3人は妊婦の体位を変えたり手足を支えたりして赤ちゃんが産声を上げるまで介助する。自然分娩だから、夜間や未明の取り上げもしばしばで付き添いが1日以上になることも。出産後は母親が赤ちゃんに添い寝し、母乳をいつでも与えられる。
同ホームでは妊婦の主体性を第一に考え、妊婦自身が立てたバースプランの希望がかない、自分で産んだと実感できるようにサポートしている。3人のケアに対し「非常に心強かった」「夫と家族が立ち会えて感動の出産だった」などの感謝の声が寄せられている。
同病院産婦人科では、医師が水上端(ただし)部長(62)だけの「1人医長」体制が15年間も続いている。水上部長は診療や手術に加え、夜間救急患者の治療も担当し24時間のオンコール(待機)状態を強いられている。院内助産所は、水上部長の激務の緩和と、減少気味の分娩数の増加を目的に導入された。しかし、助産所出産の割合は今のところ、同病院での年間分娩数(約100件)の約10%足らず。負担軽減にはまだあまり役立っていないのが現状だ。
産科医をすぐ増やせる妙案がない中で、助産師パワーを活用する院内助産所や助産師外来の開設は、産科医不足を緩和する効果的な対策の一つといえる。岡崎肇院長は「自然出産できる院内助産所のよさを広くアピールして助産所出産を増やしたい。他の公立病院でも院内助産所の導入を考える時期に来ているのでは」と提言する。
《直言直論》
◆報酬優遇で支援を
分娩を扱う病院の38%では常勤産科医が2人以下で、過酷な勤務を強いられている。疲弊した末に辞職して開業するケースも多く、現場に残った医師の負担がさらに重くなる悪循環が繰り返されている。産科医療が崩壊しつつあると警告する専門家は多い。
産科医がこれほど減った要因の一つは、若手医師が産科を嫌う傾向が高いからだ。その背景には産科特有の不利な条件がある。
出産は昼夜を問わないうえ、妊娠経過が順調でも、出産直前に予想外の異変が起きることがあり、勤務が不規則で激務になりがち。その割には報酬面で恵まれていない。さらに、出産は安全なものという思い込みが国民に定着しているせいか、医療事故が起きると訴えられるリスクが高い。医師1000人あたりの訴訟件数は外科より多く、麻酔科の5倍にのぼる。
産科医不足を改善できる効果的な対策はあるのか。厚労省が都道府県による緊急対策として打ち出した集約化・重点化構想は、大都市近郊や地方都市など産科医が一定数残っている地域では、ある程度の効果が見込まれる。妊婦にとっては出産できる近くの病院が消える場合もあるが、やむを得ない当面の措置といえる。都道府県は早急に進めるべきだ。産科婦人科学会も同様の提言をしている。
しかし、問題はへき地。現状維持もおぼつかない地域が多い。厚労省が、都道府県だけでは対応しにくい緊急対策として計画中の医師派遣(紹介)システムや女性医師バンク、助産師の活用制度などの実現を急がなければならない。
こうした対策と並行して、現場で孤軍奮闘してくれている産科医の士気を保つ必要がある。その気になれば今すぐできる支援策は、報酬を他の診療科より格段に優遇することだ。その財源の一つと考えられるのが分娩料の大幅な値上げ。実現への条件整備として、産科婦人科学会は出産育児一時金(現行35万円)の引き上げを求め、60万円程度が適当としている。
人口減少社会を食い止めるには産科医療の再構築が欠かせない。国や自治体はそのための予算を思い切って増額すべきではないか。(主任調査研究員 傍島茂雄)
〈産婦人科を巡る状況〉
医療施設で働く医師総数が毎年3500人~4000人増えている中で、産婦人科医は減少。厚労省の調査によると、04年度は1万163人で94年に比べ8%もダウンした。主要診療科の中で医師が減っているのは産婦人科と外科だけだ。高齢化も進み、産科婦人科学会員のうち50歳以上が全体の53%(外科学会では同40%)。30歳未満の若手産婦人科医はわずか5%で、女性が72%を占める。こうした事情に伴い、分娩施設が急減。同学会の調査(05年現在)では病院、診療所数が93年に比べそれぞれ29%、28%もなくなった。
◎「どうする地方」は毎月1回、掲載します。ヨミウリ・オンライン(http://osaka.yomiuri.co.jp/local/)でご覧いただけます。
図=安芸保健医療園
図=分娩施設数の地域格差
図=診療科別の医療訴訟件数
写真=入院患者を回診する篠原医師(右)=高知県安芸市の県立安芸病院で
写真=わが子に沐浴をさせる佐藤さん夫妻。左は助産師の渡部輝子さん(宮城県白石市の公立刈田綜合病院で)
写真=大谷嘉明医師
[読売新聞
〈解〉産婦人科を巡る状況
医療施設で働く医師総数が毎年3500人~4000人増えている中で、産婦人科医は減少。厚労省の調査によると、04年度は1万163人で94年に比べ8%もダウンした。主要診療科の中で医師が減っているのは産婦人科と外科だけだ。高齢化も進み、産科婦人科学会員のうち50歳以上が全体の53%(外科学会では同40%)。30歳未満の若手産婦人科医はわずか5%で、女性が72%を占める。こうした事情に伴い、分娩施設が急減。同学会の調査(05年現在)では病院、診療所数が93年に比べそれぞれ29%、28%もなくなった。
[読売新聞 ]
投稿者 akiuchi : December 15, 2006 07:13 AM