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December 29, 2006
日本の医療は効率的で安全だ
日経メディカルオンラインに「日本の医療は効率的で安全だ」という興味深い論文が掲載されている。これは血栓症に関して内科の先生が書き込んだものだが論文中の小見出しを読むとそのまま「日本の周産期医療は効率的で安全だ!」と常々私が考えていたことと一致してくる。欧米の医療がベストで日本の医療はレベルが低いと知ったかぶりをしている連中には再考を促したい。
マニュアル重視の米国医療、職人的な日本の医療>産科医は確かに職人だ
日本では医師も患者も安全についてとても敏感>確かにお産の安全なシステムを考えることは一番重要なことなのだがともすると根拠のない安全幻想が一人歩きしているところもある。
日本の医療の良さは医学教育から>情熱を持って医師としての産科学(医療)についてその魅力を語れる教育者がいないのではないか?
いったん失えば再構築は困難>養老養老孟司先生も講演会の中で生物を殺してはいけない。そのシステムをもう一度構築することはできないからという話をしていた。
【年末スペシャル2006 第7回】2006. 12. 26
日本の医療は効率的で安全だ
東海大内科系助教授 後藤 信哉氏
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/kikou/200612/502161.html
アテローム血栓症に関する大規模な前向き観察研究として、日本を含む44カ国で実施されているREACHスタディの1年目の結果から、日本は欧米に比べ、心血管死など重大な心血管イベントと、入院を要する重篤な出血性合併症が共に半分以下という実態が明らかになった。「この結果は日本の医療の優れた特質がもたらした」。国内外の循環器系学会で、こう主張し続けているREACHスタディの主査の一人、東海大循環器内科助教授の後藤信哉氏に聞いた。(編集部)
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ごとう しんや氏。1986年慶應大卒、同大助手を経て、2002年東海大内科学系助教授。専門は循環器内科学、血栓止血学。
REACHスタディ(囲み記事を参照)に登録された患者のプロフィルを見ると、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患のいずれについても、日本人の方が欧米人より登録時の年齢は高くなっていました。動脈硬化疾患は一般に高年齢ほど進行することを前提とすると、日本人の方が心血管死亡率は世界の他の地域よりも高いと想定されます。ところが実際に、登録後1年の時点における心血管死亡率は欧米に比べて大幅に低かった点が特徴でした。
登録された患者の背景は欧米と日本では、肥満が日本人に少ない以外には大きな相違はありませんでした。高血圧や高脂血症は日本人でやや少なく、糖尿病はやや多いものの、大きな差ではありません。また、心血管死亡以外のイベントについてみると、非致死性脳梗塞の発症率は日本と欧米で有意差がありませんでした。心筋梗塞の発症率も欧米よりも有意に低いものの、(日本は欧米の)8割程度でそれほど大きな違いは見られません。日本人は欧米人に比較すると出血しやすいと言われておりましたが、入院しなければならない出血性合併症の発症率はむしろ日本人において欧米の半分と低いことも分かりました。
マニュアル重視の米国医療、職人的な日本の医療
日本と日本以外ではどこが違うのでしょうか。遺伝的な相違、生活様式の相違など、考えられる要因は多数あります。私は臨床医の一人として、日本人医師の敏感な感性と優れた医療システムの役割を重視すべきと考えています。心筋梗塞を予防することが証明されているアスピリン、スタチンともに、日本人に対する使用率は欧米より低いにもかかわらずイベントが少ない理由として、本当に必要な人に対して医師が選択して使用している、と解釈するのは都合が良すぎるでしょうか。

図1 日本と他国(主として欧米)におけるアテローム血栓ハイリスク者の投薬状況(REACHスタディのベースラインデータから)
診療ガイドラインが強調される前から、米国ではワシントンマニュアル、メルクマニュアルといった医療マニュアルがあり、マニュアルに準拠した治療の重要性が医学生にも強調されてきました。ハリソン、セシルなどの内科の教科書をみても欧米では治療の部分が重視されているのが分かります。
これに対して、日本では伝統的に病態生理、薬効薬理などの教育が強調されてきました。日本の医学教育を受けた医師は、病態生理、薬効薬理の知識に基づいて、患者さんごとに病態に基づいた個別の治療選択をする傾向があるのではないでしょうか。料理の本を読んで調理しても、料理人の感性がないとおいしい料理はできません。クックブック(マニュアル、ガイドライン)的な米国式医療に対して、職人的な日本医療の利点を示したのが今回の結果とは考えられないでしょうか。この人は大丈夫そう、この人は危ないなどと個別に考え、投薬間隔を調整するといった措置を行うきめ細かな治療は、世界に誇るべき日本の医療の伝統であると私は思っています。
日本では医師も患者も安全についてとても敏感
何となく、日本より欧米ではいい医療が行われていると思いがちですが、欧米では輸血や入院が必要な出血性合併症が年間1%前後に発生しています。日本だったら入院を要する出血が100人に1人の割合で起こる治療は受け入れ難いでしょう。出血イベントで入院しなければならないとしても、「それは輸血で乗り切れます。それより心筋梗塞や脳梗塞になったら大変でしょう」という損得勘定の割り切りは日本では難しいのではないかと思います。

図2 日本と他国(主として欧米)におけるアテローム血栓症ハイリスク者の心血管重大イベントと出血性イベントによる入院の比較(REACHスタディ1年目の結果から)
日本では、医師も患者も安全性にとても敏感です。医師は自分が行った治療で悪いことが起きないように注意しつつ、最大限の効果を狙うため、努力しています。この努力が結果として安全性の高い医療が実現しているのだと思います。
各学会は、マニュアルやガイドラインなどを相次いで策定し、医療の均質化を実現しようとしています。米国のように(医師や医療機関によって)医療の質に大きな差があれば、ガイドラインに準拠した医療を行うことは、全体を引き上げる効果があるでしょう。しかし、日本の医師は熱心で優秀で均質なので、あえてガイドラインを作っても、医療の質を全体として向上できるかどうか、疑問が残ります。特に、現在のように、日本から臨床研究データが発信されておらず、ガイドラインに取り込まれる臨床データの大半が欧米人のデータという状況では、ガイドラインの作成、使用には十分な注意が必要だと思います。
抗血栓療法は出血リスクという対価の下に抗血栓というメリットを得る治療です。出血を最小限にして、最大の抗血栓効果を得るベストの用量は、個人や民族、居住地域ごとに異なる可能性が高いと思います。日本からの情報発信ができる体制を作らないと、ガイドラインによって、日本人にベストでないバランスが強調されるという恐れがあると思います。
「武士は食わねど高楊枝」と、商人の損得勘定を低く見ていた日本では、損得勘定に基づいた治療という考え方を容易には受け入れない社会的背景があります。実際、患者さん側も治療による損を受け入れないような傾向がありますね。これが大きなプレッシャーになって、出血が少なく血栓も少ないという絶妙なバランスをとった医療が行われているのでしょう。
個々の医師の努力、患者サイドからのプレッシャー、頻繁に医療機関を訪れることができる保険制度、と日本の医療環境には世界に誇れる部分が多くあります。医療機関に患者さんがあふれ、外来の待ち時間が長いといったネガティブな面は確かにありますが、世界で一番長寿になっているのは丁寧な医療が行われているということでもありましょう。ネガティブな部分を改善する努力とともにポジティブな部分を残す努力、今の医療のいい部分を社会が褒める努力も大切だと思います。
日本の医療の良さは医学教育から
こうした日本の優れた医療は、明治以来、連綿と行われてきた医学教育に原点をたどることができると私は考えています。米国の医学教育は、早くから実際の医療現場に参加して、クリニカル・クラークシップを通してマニュアル的な医療を学びます。しかし日本では、少なくとも今までは基礎医学、特に病態生理を重視してきました。とかく批判されがちですが、基礎研究成果を上げて教授などの高位の教員となっているものが多いのも日本の特徴です。マニュアル的な医療ではなく、薬効・薬理や病態に強い教員に教育された医師は薬効薬理、病態生理に基づいた個別治療をできる能力を有するようになっているわけです。
卒後教育必修化により、卒後直後の大事な時期に一般病院で研修する方が増えてきました。その結果として、薬効薬理と病態生理に強いという今の日本の医師の世界に誇り得る資質を維持できるか、われわれは注意深く見て行く必要があると思います。
日本にエビデンスがなかったのは、個々の医師が言語化できないような情報に従って、「なんとなく危なそう」などと感性に基づいた医療をしてきたため、数値化しにくかったのだと思います。しかし実態を調査してみれば極めて良質でコストエフェクティブな医療が行われていると言えます。
このような内容を海外で話すと、しばしば、「日本人の遺伝的素因ではないか」などと反論されます。しかし、ホノルル・ハート・プログラムなどでも明らかなように、ハワイに移住した日本人は心血管疾患死が増えています。そこには、栄養的な要素だけではなく、医療の要素もあったのではないかと思っています。「データのクオリティに問題があるのではないか」という指摘もありましたが、今回のREACHスタディではフォローアップ率も高く、質の高い、信頼できるデータベースであると信じております。同じようなJ-TRACE、EVERESTという日本国内の前向き研究も始まっており、今後に期待できます
いったん失えば再構築は困難
日本の医療は、「3分間診療」などと揶揄(やゆ)されますが、欧米に比べて余分なことをしていないのだろうと思います。例えば米国では、「徴候なし(ネガティブファインディング)」という情報を必ず記載します。しかし、日本の医師ははじめからポイントだけを目指し、ネガティブファインディングは記載しません。効率がいい医療を実現しています。
これは日本の医師の感性が優れているのだと思います。あえてネガティブなことを聞かなくても診ただけで通じるということなのかもしれません。
無作為化二重盲検試験だけがエビデンスではありません。あらかじめきっちりエンドポイントを定めた前向き観察研究による国際比較は、日本の医療の優れた部分を評価するためにとても重要でした。やってみて初めて理解できたと言えます。
日本の医療の優れた面は、いったん失ったら取り戻すのは不可能です。効率的な医学教育・医療システムは明治以来の先人が築いた大切な宝物です。ちょっとあちらの方がよさそうだからといって十分に考察せずに捨てるようなことがあってはならないと思います。マスメディアが医療を取り上げる時はネガティブな面を取り上げることが多いのは残念です。
私を含め、多くの医師は献身的な、真剣な、まじめな医療を全力で実践しています。日本の医療の真の姿を、ポジティブ面を含めて公正に評価することが必要です。ヒトはネガティブに扱われるよりもおだてられた方がよく働きます。日本の医師に対してもマスメディアが褒めて、褒めることによりさらに今以上に一生懸命に働くように誘導した方が国全体としても得が大きいと思います。
日本の医療の良さは感性ですから口に出して伝えにくく、失ったら再構築は困難です。今、医療教育を担っている人々がいなくなったらもう取り戻せません。いい部分を大切にしていきたい、日本にはいい部分がたくさんある,ということに対する一つの実証として今回の研究成果を扱っていただければと思います。
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REACH研究の概要
REACH(The Reduction of Atherothrombosis for Continued Health)スタディは、アテローム血栓症リスクを持つ患者のイベント発生と治療状況を調査する国際前向き観察研究で、44カ国5473人の医師の協力を得て、2003~2004年にかけて6万8375人を登録、2年間の追跡が行われている。既に2年間の期間延長が決定しており、少なくとも4年間の追跡が実施される。日本からは5193人が登録された。全世界の1年目の結果は2006年3月に米国で開催された米国心臓学会(ACC)で、同じく全世界の2年目の結果は2006年9月にスペイン・バルセロナで開催された世界心臓病学会議(WCC/ECC)で発表された。日本の1年目の結果は、2006年9月に鹿児島で開催された日本心臓病学会で報告されている。(編集部)

図3 REACHスタディの選択基準
投稿者 akiuchi : December 29, 2006 09:46 AM