« オスはメスの派生型 | メイン | 医療クライシス:忍び寄る崩壊の足音/3&4 »
January 26, 2007
毎日新聞「医療クライシス」 2007年1月23日(火)
どちらかというと内診問題、奈良県の大淀病院事件などではわれわれ産科医には批判的な記事が目立っていた毎日新聞が「医療クライシス」という興味深い連載を今週から開始した。「『医療崩壊』を食い止めるにはどうしたらいいのか。手がかりを求め、現場を歩いた。」という記者が今後どのような記事を書いていくのか注目したい。「医療崩壊」に加担していると思われるマスコミが自己批判を展開してわれわれを支援してくれることを期待するのは時期尚早かもしれない。
医療クライシス:東京・大阪の公立病院、半数が診療縮小--毎日新聞調査(1387文字)(毎日新聞) - 2007年1月23日(火)
<2面で連載スタート>
◇常勤医285人不足
医師不足などのため、東京都と大阪府内の計54の公立病院のうち、公立忠岡病院(大阪府忠岡町、83床)が3月末に閉院するほか、半数近い26病院で計46診療科が診療の休止・縮小に追い込まれていることが、毎日新聞の調査で分かった。常勤医で定員を満たせない病院は45病院あり、不足する常勤医は計285人に上る。非常勤医で穴埋めできていない病院もあり、医師不足によって病院の診療に支障が出る「医療崩壊」が、地方だけでなく2大都市にも広がり始めている実情が浮かんだ。
調査は都府立、公立、市立病院(大阪市立大病院を除く)と、都保健医療公社が運営する病院を対象に実施。00年以降の診療休止・縮小の状況や、今月1日現在で常勤医が定員に満たない科の数などを尋ねた。
閉院を決めた忠岡病院は、03年に12人いた医師が05年には4分の1に激減。昨年4月に皮膚科と泌尿器科、今月は脳神経外科を休止し、病院自体も存続できなくなった。
診療科別に見ると、休止・縮小したのは、産科・産婦人科が計10病院で最多。次いで小児科6、耳鼻咽喉(いんこう)科が5病院だった。
不足している常勤医数は、内科が18病院で計47人と最も多く、麻酔科15病院29人、産科・産婦人科が16病院27人、小児科が11病院22人と続いた。不足の理由は、▽04年度導入の新医師臨床研修制度をきっかけに、大学病院が系列病院から医師を引き揚げた▽勤務がきつく、リスクを伴うことが多い診療科が敬遠されている――など。
診療への影響は、「救急患者の受け入れ制限」(都立大塚病院・豊島区)など、救急医療への影響を挙げる病院が目立つ。住吉市民病院(大阪市)のように、産科医不足による分べん数の制限を挙げる病院も多かった。
打開策については、都立墨東病院(墨田区)などは「給与水準引き上げ」と回答、府立急性期・総合医療センター(大阪市)が「出産・子育てから復職支援など女性が働きやすい環境作り」を挙げるなど、労働環境の改善を挙げる病院が目立つ。「医療訴訟に対する裁定機関や公的保険制度の確保」や、「地域の病院と連携し、医師の診療応援など交流を図る」などの意見もあった。【まとめ・五味香織、河内敏康】
◇「高額医療費」実は平均以下--OECDデータ
地方だけでなく、大都市にも「医療崩壊」が広がり始めた背景には、日本の低医療費政策がある。医療費を巡る政策論議では長年、いかに抑制するかがメーンテーマとなってきたが、経済協力開発機構(OECD)の国際比較データからは、正反対の実情が浮かぶ。
医療費を対国内総生産(GDP)比でみると、日本は1960年代半ばの一時期にOECD加盟国平均に達していた以外は、一貫して平均を下回っている。03年もGDP比8%で、平均の8・8%に届かない。
特に、先進7カ国(G7)の水準には程遠く、差が広がるばかり。03年のG7平均は10・1%で、日本はG7平均に比べて医療費の支出が2割も少なく、先進国並みに医療にお金をかけているとは言えないのが現実だ。
人口1000人あたりの診療医師数(診療に従事する医師の数)は、一度もOECD平均を上回ったことがない。差は年々拡大し、04年には平均3・1人に対し日本は2人。OECD平均に達するには、医師を1・5倍に増やす必要がある。
[毎日新聞 ]
医療クライシス:忍び寄る崩壊の足音/1 分べん台で1時間待ち(1525文字)(毎日新聞) - 2007年1月23日(火)
◇転送先探し、東京でも困難に
全国で最も病院が多く、医師も集中する首都・東京のベッドタウン、東京都日野市。住宅街の一角に建つ日野市立病院(300床)の市原眞仁院長は、疲れた表情で話し始めた。
「どこに頼んでも医師が見つからない」
大学からの医師派遣を次々と打ち切られ、内科や小児科など5科で入院の受け入れ制限など診療を縮小している。4月には脳神経外科が縮小に追い込まれる見通しだ。
きっかけは04年度に導入された新医師臨床研修制度。新人医師は2年間研修が義務化され、大学病院も医師が不足し、系列病院から次々と医師を引き揚げた。「各地で医療事故が訴訟や刑事事件になっている影響」(市原院長)もあり、職員の士気も落ちている。
市原院長は「病院は赤字続きで、私は3月に責任をとって辞めるが、誰も後任に来たがらない」と途方に暮れる。
東京に次いで医師が多い大阪でも変わらない。
今年3月で閉院する公立忠岡病院(忠岡町、83床)。須加野誠治院長は医師を確保しようと、延べ200回近く近畿各地の大学病院に出向いた。だが、軒並み断られた。
須加野院長は「公的病院は日本の医療を支えてきたのだが……。弱者を切り捨てることになる」と悔しさをにじませる。
東京23区すら例外でない。東部の中核的医療機関、都立墨東病院(墨田区、772床)の産科は昨年11月から、出産を控えた妊婦の新規の外来受け付けを中止した。黒田祥之事務局長は「大学病院を10カ所以上回ったが、どこも派遣してくれそうにない」と語る。
■ ■
しわ寄せは、患者に及んでいる。
昨年7月。東京都内の女性(26)は休日の未明、かかりつけの産婦人科で陣痛を抑える点滴を受けていた。妊娠28週での早産が避けられず、新生児集中治療室(NICU)のある病院へ転送が必要になったためだ。
東京にはNICUを持つ24病院が参加し、出産前後の「周産期」の情報を共有するネットワークがある。うち9病院が総合周産期母子医療センターに指定され、受け入れ先探しも担う。
しかし、最も近いセンターの杏林大病院(東京都三鷹市、1153床)は「NICUがいっぱいで受けられない」。医師は転送先を探し、女性の横で電話をかけ続けたが、次々と断られた。
女性は分べん台に乗せられたまま1時間が過ぎた。「医師不足は地方の話。東京は大丈夫」と思っていたが、電話をかける先がどんどん遠くなり不安が増す。「あたし、どうなるの」
1時間以上かかって見つかったのは、直線距離で約40キロ離れた病院。1時間かけて運ばれ、不安が消えたのは、帝王切開を受け、産声が耳に届いたときだった。
送り出した産婦人科医は「センターの病院も人手不足で、転送先は自分で探さなければならないケースが多い。(19病院に断られた)奈良・大淀病院のケースのように受け入れ先を見つけるのが困難なのは、東京でも日常茶飯事だ」と明かす。
公立福生病院(東京都福生市、211床)は医師不足で、04年から人工透析を休止したままだ。転院せざるを得なくなった女性(52)は「異常があった時、総合病院なら対応してもらえる安心感があった」と嘆く。再開を待ちながら亡くなった患者もいるが、医師確保の見通しは立たない。
× ×
「医療崩壊」を食い止めるにはどうしたらいいのか。手がかりを求め、現場を歩いた。=つづく
………………………………………………………………………………………………………
ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメールt.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp 〒100―8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。
[毎日新聞
医療クライシス:忍び寄る崩壊の足音/2 時間外労働、月90時間超(1500文字)(毎日新聞) - 2007年1月24日(水)
◇過労で能力低下
横浜市立大母子医療センターの産科主任、奥田美加さん(40)は、夕方過ぎに病院から自宅へ電話を入れるのが日課だ。小学1年生の長男(7)からは、決まって同じことを聞かれる。「ねえ、今日帰ってくるの?」
月7~8回当直し、連続36時間勤務や土日の呼び出しは当たり前。自宅で食事中に呼び出され、泣き出しそうな長男を残して出勤することもしばしばだ。奥田さんは「次世代が増えてくれないともう限界」と話す。だが神奈川県で06年春に初期研修を終えた医師600人中、産婦人科医を選んだのは10人だった。
今月19日午後7時、大阪府立母子保健総合医療センター(和泉市)の産科医、浜中拓郎さん(34)の携帯電話が鳴った。「帝王切開後、出血が止まりません」。応援を求める電話だった。学会で大阪市内にいたため、タクシーでセンターへ。手術は午後11時ごろ終わり、患者の命は救えた。午前1時ごろ帰宅した浜中さんは、朝6時に起きて学会発表の準備をした。同センター産科は常勤医が9人から7人に減り、その分仕事量が増加。当直は月に7~8回ある。
厚生労働省の調査では、平均的な医師でも月90時間以上は時間外労働をしており、同省の過労死認定基準が目安とする「月80時間の時間外労働」を超えている。
■ ■
「医者なんてろくな職業じゃない」。小児科医を目指し、神奈川県の病院で研修医生活を送る千葉智子さん(25)は高校3年だった99年春、小児科医の父から医師への道を猛反対された。その夏、父は勤務先の病院で飛び降り自殺した。44歳だった。自殺の半年前、小児科部長代理になった。責任は重くなったが、退職や転職で半減した医師の補充もなく、当直日数が増えた。遺書には「経済大国の首都で行われる貧弱な小児医療。医師を続ける気力も体力もありません」とあった。
智子さんは、医師の労働条件を整備しようと、厚労省の医系技官を目指した。しかし小児科の講義で「小児には発達があり未来があり、病気が治る可能性がある」と聞き、父の思いの原点を感じて心が動いた。
労災認定を求めて薬剤師の妻、のり子さん(50)が起こした行政訴訟の判決が3月、東京地裁である。のり子さんは「夫のような悲劇が二度と起きない医療現場になってほしい」と訴える。
一方、大阪高裁では2月、看護師の過労死認定を巡る訴訟の控訴審判決が言い渡される。
原告は、01年3月にくも膜下出血で亡くなった国立循環器病センター(大阪府吹田市)の看護師、村上優子さん(当時25歳)の遺族。当時、村上さんが友人に送ったメールには「日勤が忙しくて、帰ったのは22時前でした。寝る時間がほとんどなくってそのまま深夜(勤務)に突入。もう始まったときからふらふらでした」とあった。
1審判決は遺族側敗訴だったが、裁判を支援する会の仲村幸治事務局長は「看護師の職場環境は劣悪。村上さんの例は氷山の一角だ」と訴える。
■ ■
05年秋の米国医師会雑誌に、過労による医師の能力低下を調べた論文が掲載された。週80~90時間働き、夜間の呼び出しもある小児科研修医の注意力などの能力は、週44時間勤務の小児科研修医が飲酒した状態と同じ程度に落ちていた。
医師不足による過労は、患者の安全も脅かしている。=つづく
………………………………………………………………………………………………………
ご意見、ご感想をお寄せください。〒530―8251(住所不要)毎日新聞科学環境部「医療クライシス」係。ファクスは06・6346・8187、Eメールはo.kagaku@mbx.mainichi.co.jp
[毎日新聞 ]
投稿者 akiuchi : January 26, 2007 07:19 AM