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February 02, 2007

「医療界の常識」打破 自治体病院の「再建請負人」武弘道さん

自治体病院の経営再建の話。要は人件費か?

「医療界の常識」打破 自治体病院の「再建請負人」武弘道さん
07/01/29
記事:毎日新聞社
提供:毎日新聞社
ID:462544


特集ワイド:自治体病院の「再建請負人」武弘道さん 「医療界の常識」打破

 ◇ムダ省き、患者本位で

 「病院のカルロス・ゴーン(日産自動車共同会長兼社長)」と言われたこともある。鹿児島市、埼玉県、川崎市とわたり歩いて、赤字続きの自治体病院(都道府県立や市町村立の病院)を次々と黒字にしてきたのが、この人。現在は川崎市病院事業管理者をつとめる武弘道さん(69)だ。世間の常識が通用しなかった自治体病院をどのように改革してきたのか、武さんに聞いた。【西和久】

 ◆病院の社長

 武さんの肩書である病院事業管理者とは、病院長の上にあって、予算から人事まで経営を掌握する、いわば「病院の社長」である。武さんは鹿児島市立病院の病院事業管理者兼院長として8年間黒字経営を続けた実績を買われて、02年に当時の土屋義彦知事から埼玉県の病院事業管理者に迎えられた。

 全国に約1000ある自治体病院の6割以上が赤字とされる。それもただの赤字ではない。民間病院と違って自治体の一般会計から支出される繰入金を加えてなお赤字なのである(図1)。そして自治体自身が財政の悪化で(北海道夕張市のように)繰入金を出せなくなりつつある。

 そんな現実の下、武さんは埼玉県での4年間で四つの県立病院の累積赤字を一掃し、剰余を生み出すまでにした(図2)。そして05年、阿部孝夫川崎市長からスカウトされた。

 結果は1年目から出始めた。川崎市立の2病院(このほか公設民営病院が06年に発足)が計7億1000万円の黒字に転換した。前年度が10億6000万円の赤字だから、17億7000万円も収支が改善したことになる(図3)。武さんは「ゴーンさんと違ってリストラや患者サービスの低下はしません。重要なのは内部の意識改革。ムダを省いて、患者本位の医療に徹すれば、結果はついてきます」と言う。では、武さんは何をしたのか。

 ◆面接は異例?

 「医師を採用するときに、面接することにしたんですよ」と武さん。えっ、これまではしてなかった? 社員を採用するときに幹部が面接するのは当たり前のこと。ところが、医療界ではきわめて異例だという。とくに医師不足の地方では、大学から交代で送り込まれる医師を「ありがたくお受けする」のが常識なのだという。

 「面接とともに『市民のための医療を行い……』などと宣誓してもらわないと採用しません」。その意図は学閥の打破。自分を送り込んできた大学の「医局」の評価ばかりを気にするのではなく、患者のための医療に専念する覚悟をもってもらう。

 武さんの病院改革は、驚くようなことをしたわけではない。こんなふうに、「医療界の常識」を「世間の常識」に変えることだった。

 武さんが病院経営の物差しにしているものがある。83年以降、ずっと記録してきている主要自治体50病院の経営比較データだ。注目したのが毎年増えてきている外部委託費の動向だった。企業社会でいうアウトソーシング。当然、経営的にプラスになるというのが常識なのだが、病院では外部委託の比率の大きい方が経営状態がよくない。何のことはない、外部委託を増やしても人件費を減らしていなかった。これでは二重払いだ。武さんは外部委託の見直しを行い、一部の業務は再び内部化することにした。

 データのランキングで川崎市立病院をみると、経営状態は50病院中のビリ近く。にもかかわらず職員の特殊勤務手当の多さはトップクラスだった。武さんはデータを公開して職員を説得し、手当を大幅にカットした。

 また、薬や医療器材の一括購入を導入した。民間ではまとめて買えば安くなる、というのは常識。ところが埼玉県では4病院、川崎市では2病院がそれぞれ別々に買っていた。まとめて納入業者に競争させただけで、かなりの経費節減になった。ただ、その過程では古くからの業者や議員がらみの関係者をも切ることになった。中傷やいやがらせを受けたこともある。「でも、しがらみのない私だからできたんですよ」と武さん。

 ◆患者サービスで増収

 一般企業が再建する場合は、経費節減と同時に、売り上げの拡大も必要になる。では、病院経営ではどうか。別の目的で導入した改革が結果的に増収につながったようだ。

 一つは看護師の副院長昇格。「病院で働く人の60%が看護師なのに、日本では看護師副院長がほとんどいない。おかしい」というのが、武さんの持論。それを埼玉県でも川崎市でも実行した。看護師のモラルが高まる一方で、医師と違って看護師は診療科にとらわれない。入院許可を看護師に任せたところ、内科と外科の入院ベッドの融通などがスムーズに行われるようになった。ベッドの稼働率が上がり、大きな増収要因となった。

 また診療開始時刻を繰り上げた。病院には朝から多くの外来患者が来て診療開始を待つ。「それなら診療開始を少しでも早く」という武さんの提案で、15分繰り上げたところ、診察できる患者数が増え、患者サービスの一環が増収につながった。

 ◆危機的な小児科

 武さんはもともと小児科医である。武さんが勤務医をしていた鹿児島市立病院で80年に2例目の五つ子が生まれた。主治医をしたのが、武さんである。

 その武さんがいま最も心を痛めているのが小児科の現状だ。小児科をもつ病院数が減っている。90年に全国で4120あったのが、05年には3154に。小児科の医師が次々と辞めていき、医師が確保できなくなっているのが大きな原因の一つだ。

 もともと小児科は、診療報酬が低く、子供相手に時間がかかるわりに、たくさんの検査もできず、薬も多く出せない。病院にとっては採算の悪い診療科だった。そのために大病院でも医師は2-3人しか配置されず、この人数で救急や当直に対応しなければならない。その結果、医師が疲れ切って辞めていく。「立ち去り症候群」(武さん)だ。産科もまた同じ状況にある。

 現在、医師不足が深刻な問題になっているが、「仮に医師数を大幅に増やしても、学生が小児科・産科医になりたがらなければ同じこと。それなら、小児科・産科専門の大学か学部をつくるべきだ」と、武さんはあちこちで説いて回っている。

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 ■人物略歴

 ◇たけ・ひろみち

 1937年鹿児島県生まれ。九州大学医学部卒業。米ミシガン小児病院など2回にわたり米国の病院で臨床医として勤務。77年鹿児島市立病院小児科部長、93年病院事業管理者兼院長、02年埼玉県病院事業管理者、05年から川崎市病院事業管理者。

投稿者 akiuchi : February 2, 2007 03:12 AM